南極海の白い雲〜日経サイエンス2023年9月号より
海の植物プランクトンがその白さに一役買っている
太陽光が地球への8分間の旅を終えて雲などの白色面に当たると,ほとんどは宇宙空間へ跳ね返される。より白くて明るい雲ほど太陽光をよく反射し,地球を涼しく保つのに寄与している。最近のAtmospheric Chemistry and Physics誌に発表された研究は,この過程に関わる意外な要素について考察している。小さな水生生物の植物プランクトンが,地球の雲を白くするのに大きな役割を果たしているのだ。
研究チームは人工衛星を使って,南極海上空の広い領域を5年間にわたって監視した。この結果,南緯60度(南極大陸寄りの部分)に生じる雲が,より北にできる雲に比べて著しく白い傾向にあることがわかった。
その原因は? 微小な海洋植物プランクトンだと,今回の論文の筆頭著者であるユタ大学の大気科学者メイス(Gerald Mace)はいう。南極海は「非常に豊か」で,より北側の海域よりも植物プランクトンなどの微小な生物が豊富だという。太陽光を吸収するこれら植物プランクトンの多くは,その代謝の過程で「硫化ジメチル」という化合物を放出する。これが上昇し,大気中のガスと反応して小さなエアロゾル粒子が生じ,最終的に雲ができる。
小さな水滴がたくさん
水蒸気が凝結して雲粒になるには通常まず“タネ”粒子に結合する必要があると,独マックス・プランク化学研究所の生物地球化学者アンドレーエ(Meinrat Andreae)はいう。彼は植物プランクトンがこうした凝結核をもたらす効果を調べた先駆者のひとりだ(今回の研究には関与していない)。南緯60度では豊富な植物プランクトンが硫化ジメチルを大量に作り出しているため,そこにできる雲は非常に小さな水滴に満ちている。
一方,より北の海域の上空には雲を形成するタネはさほど多くなく,「大部分は海水のしぶきに由来する塩粒だ」と今回の論文を共著したユタ大学の大気科学者ベンソン(Sally Benson)はいう。結果として生じる雲に含まれる水滴は大きくて数は少ないため,小さな水滴を多数含む南の雲よりも太陽光を反射する表面積が小さくなると研究チームはいう。(続く)
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