土星の氷衛星の生命探査に進展〜日経サイエンス2023年9月号より
エンケラドスの海水から生命の材料「リン酸」が見つかった
日欧米の国際研究チームは土星の氷衛星「エンケラドス」の海水中にリン酸が多量に含まれていることを突き止めた。生体分子の材料に欠かせないリンが見つかったことで,エンケラドスにも地球に似た生命を育む環境が整っている可能性が高まった。地球外生命の探査に向けた手がかりになるほか,地球上の生命の起源を探るヒントも得られる。
地球に似た生命に期待
エンケラドスは生命が存在する最も有力な候補とされている。生命に必須である液体の水・有機物・エネルギーという3つの条件を満たしているからだ。エウロパやガニメデといった木星の氷衛星でも液体の水が見つかっているが,有機物やエネルギーについては4月に打ち上げられた欧州の探査機JUICEがこれから調べるという段階にある。40億年ほど前なら火星も全ての条件を満たしていたが,その条件を今も満たす証拠がそろっている天体はエンケラドスだけだ。
その姿を解き明かしてきたのは,米航空宇宙局(NASA)の土星探査機カッシーニによる観測だ。エンケラドスは太陽から遠く離れた極寒の世界にあり,表面は氷に覆われている。岩石に温められた内部には,液体の水をたたえた広大な地下海が広がる。氷の割れ目からはプルームと呼ばれる間欠泉が噴き出し,宇宙空間に海水が放出されている。カッシーニは何度もプルームの中を通過し,搭載した分析装置を使って海水の成分のデータを集めてきた。
カッシーニによる探査は2017年にすでに終了しているが,プルームを観測したデータの解析は現在も続いている。これまでの解析では,二酸化炭素(CO2)やアンモニアなどのガス成分のほか,塩分や様々な有機物が海水から検出されている。高温の水が岩石に触れたときに形成されるナノサイズのシリカ粒子も見つかっており,海底には地球の熱水噴出孔に似た環境があるとされている。
独ベルリン自由大学を中心とする欧米の研究チームは,プルームの微粒子に含まれる海水の成分をひとつひとつ解析した。ほとんどは塩分や有機物などこれまでにも見つかっている成分だったが,345個のうち9個からリン酸を検出することに成功した。ここからエンケラドスの海水に含まれる平均的なリン酸の濃度を見積もると,地球の海水に比べて数千倍から数万倍の高濃度になっていたとみられるという。(続く)
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