中高生が学ぶ サイエンス講義

花王、最新の毛髪科学を講義〜本質を追求し、本当の解決策を探ることが大切

●髪を美しく導くための本質研究
梅雨どきに髪がうねったり広がったりして悩んだ女性は少なくなかったのでは? 花王はくせ毛の原因や解決法を題材に2023年5月、お茶の水女子大学附属高等学校で「髪を美しく導くための本質研究」と題した特別講義を行った。

高校時代の悩みが「髪がぺたっとすること」だったという西田由香里氏。(お茶の水女子大学附属高等学校にて)

登壇したのは花王ヘアケア研究所研究員の西田由香里氏。「研究所はものづくりの出発点となるため、人・社会・地球にやさしい商品づくりを常にこころがけている」と話す。花王の研究所は約100年のヘアケア研究の実績があるという。

最初の実験で2つの毛髪を見て触れてみた。直毛と、直毛にくせ毛が20%混入したもの。くせ毛が混じると、ツヤや感触、まとまりの悪さを感じるようになる。
そもそも毛髪は何でできているのだろう。タンパク質が約80%を占め、水分が約10%含まれるとのこと。毛髪の形状にかかわる結合を調べてみると、髪の元形状を決める「シスチン結合」、水分によってつなぎ替えることができる「水素結合」などの結合があるそうだ。「髪が乾いていると水素結合によって形が保たれ、濡れると水素結合が切れて自由に変形できるようになる」と西田氏。これを2つ目の実験で確かめてみた。

●「1%の制御」が難しい
これはヒトの毛でも同様だった。細胞の太さは毛髪の1/30、細胞を構成するケラチン繊維は毛髪の1/10000と極めて細い。ケラチン繊維の特徴を分子レベルで解明するため、「大型放射光施設(SPring 8)」という世界最高レベルの実験施設を使って分析した。
その結果、くせ外側では「傾いたケラチン繊維をもつ長い細胞」があり、くせ内側では「平行なケラチン繊維をもつ短い細胞」があることがわかった。

では、なぜ毛髪は曲がるのか。西田氏はこう考える。「毛髪の細胞は毛根の一番奥でできた後、角化を経て細くなる。平行なケラチン繊維は角化の過程であまり伸びないが、傾いたケラチン繊維は横から押されて伸びやすい。この内外の差で毛髪が曲がるのではないか」
ここで、ホースを使ったくせ毛模型を用い、そのカール曲げの半径を求める実習にも取り組んだ。

「日本人の強いくせ毛でもカール内外の長さの差はたったの1%。しかしその1%の制御が難しい」と西田氏は話す。さらなる革新に向け、動物園でいろんな動物の毛をもらい、内外の伸縮率が1%以上のものを探し、アシカやアザラシの体毛が約2%あることを発見した。北海道旭川市の旭山動物園と共同研究を行い、その内容をYouTubeに公開している。
「現在、アシカやアザラシの体毛を研究することで、くせをさらに伸ばす視点を探している」という。

西田氏は講義の最後に「本質追求は重要なスキル」と強調する。「世の中のほとんどの問題には答えがない。根本的な原因を見つけ、それに対する解決策を見いだす必要がある。本質追求は自己成長にもつながる。みなさんも学習や悩みの解決に役立ててほしい」


左からヘアケア研究所の茂木楓氏、主席研究員・長瀬忍氏、江波戸厚子氏(お茶の水女子大学附属高等学校にて)

生徒から「アザラシなど動物の毛に注目したという話に視野を広げることの大切さを学んだ」「本来の目的を果たすためには、本質を見ることの大切さが勉強になった」といった声が聞かれた。

※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社