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レーザー避雷針〜日経サイエンス2023年8月号より

雷を誘導する実験に成功 

落雷は米国だけでも毎年約4000万回に上る。この自然現象はランダムで予測が難しく,主な対処法としては避雷針があるのみ。300年近く前から使われている古い技術だ。だが最近,より21世紀にふさわしい方法が探られている。レーザービームを使う方法だ。

フランクリン(Benjamin Franklin)が開発した避雷針は単一の建物を守るには十分だ。だが,風力発電設備や空港,ロケット発射台など広域にわたる土地や施設を守る能力には限界がある。そこで,ある科学者チームは高出力レーザーを使って落雷を誘導する実験をスイスの山の頂で行い,Nature Photonics誌に報告した。この「レーザー避雷針」によって将来は重要な大規模インフラから落雷をそらすことが可能になるだろうという。

「見事な成果だ」と,レーザー誘雷技術の先駆者であるアリゾナ大学の光学科学者モロニー(Jerry Moloney)は評する。「極めて精巧な装置だ」。



空気を電離して雷を誘導 
落雷は通常,嵐の際に水滴と氷晶の摩擦によって雲の内部に静電気が生じて起こる。この電気が蓄積して最終的に放電し,雲と地面の間の電気抵抗が最小の経路に沿って巨大な電気火花が上向きまたは下向きに進むのだ。普通の避雷針は導電性の金属でできている。落雷が起こりやすい場所を提供し,その電気を建物を迂回させて地面に逃す。だが,脆弱なターゲットから雷をそらす手段は金属だけではない。

今回の実験では,高出力レーザーを使って空気の柱を導電体に変えた。レーザーを照射すると,ビームの通り道にある空気の分子から電子が分離し,荷電粒子が生じる。この電離によって,通常は絶縁体である空気の電気抵抗が小さくなり,雷を引き寄せる経路に変わる。保護すべき区域の上空に,高くそびえる避雷針を一時的に作り出すのだ。(続く) 

続きは現在発売中の2023年8月号誌面でどうぞ。

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