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圧力を気にしない微生物〜日経サイエンス2023年8月号より

ある種の細菌は低圧も高圧もへっちゃら 

圧力下で生き延びることに関しては,人間は微生物に絶対にかなわない。腐った肉によく見つかるカルノバクテリウム属(Carnobacterium)の細菌が,ごく薄い大気から何でも押しつぶされる深海まで,非常に広範囲の圧力の下で分裂・増殖できることが最近のAstrobiology誌に報告された研究で明らかになった。この適応能力は地球上の他のいかなる生命体にも知られていないという。このたくましさは,単一の生物が太陽系の隅々まで劇的に異なる環境のもとで生存できることを示唆している。



0.01気圧から100気圧まで 
カルノバクテリウム属の様々な菌株が高圧と低圧の環境下で繁殖できるとの以前の発見に基づき,フロリダ大学の微生物学者ニコルソン(Wayne Nicholson)らは14の菌株について幅広い圧力条件への反応を系統的に調べた。研究チームが注目した細菌株は肉(海産物と鶏肉,ソーセージを含む)から分離したものだけでなく,シベリアの永久凍土,南極の氷結湖,北太平洋のアリューシャン海溝の深部から採集されたものを含んでいる。

ニコルソンらは実験室で,各細菌株に0.01気圧から100気圧までの圧力をかけた。これはそれぞれ火星の表面と,木星の衛星エウロパに存在する液体の水の海の内部の圧力に相当する。この結果,11の菌株が実験したすべての圧力下で計測可能な成長を示した。微生物が広範な圧力にどれだけ耐えられるかを調べた過去の研究例は非常に少ないが,他のほとんどの生物が圧力にずっと敏感だとみられることを考えると,これは驚くべき結果だとニコルソンはいう。「人間はエベレストに登ると呼吸が難しくなる。海面気圧の30%ほどでそうなる」。

比較的高い圧力下で生き延びる細菌がほかにも知られていると,スペイン国立航空宇宙技術研究所の宇宙生物学者ゴメス・ゴメス(Felipe Gómez Gómez,この研究には加わっていない)はいう。しかし,今回の結果はカルノバクテリウム属の菌が大幅な圧力差に耐えられることを示している点で新しいと指摘する。「本当に難しいのは,この幅広い圧力で生き延びることだ」。こうした能力は,例えば異星の海の様々な深さでも理論的には生きていけることを意味しているとゴメス・ゴメスは付け加える。「この研究は宇宙生物学的にも重要な意味がある」。■ 

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