SCOPE & ADVANCE

妊娠高血圧腎症の予測〜日経サイエンス2023年7月号より

2種類のタンパク質を指標に重症化のリスクを評定する

妊娠期によく見られる病気のひとつ,妊娠高血圧腎症については,数多くの研究が行われたにもかかわらず,まだ謎が多い。この病気は危険な高血圧が特徴で,米国の妊婦の約5%に発症し,黒人女性の発症率が有意に高い。そして患者数は増えている。

唯一の完治法は出産することだ。このため重大なジレンマが生じる。妊娠高血圧腎症患者は妊娠が長く続くほど病状が悪化するが,胎児は長くお腹のなかにいるほうが健康に生まれる可能性が高くなる。医師は治療方針を決めるために個別の症例がどの程度深刻になるかを予測しなければならないが,これが難しい。



NEJM Evidence誌に掲載された新たな研究は,妊娠関連の高血圧が重度の妊娠高血圧腎症(臓器不全や失明,脳卒中につながる)に悪化するかどうかを予測する方法を提供している。論文の筆頭著者となったシダーズ・サイナイ医療センター(ロサンゼルス)の産婦人科長キルパトリック(Sarah Kilpatrick)は2種類の妊娠関連タンパク質のバランスに注目したという。胎盤の成長を刺激するPIGF(胎盤増殖因子)というタンパク質の値は高いほうがよい。一方,sFlt-1(可溶性fms様チロシンキナーゼ)の値が高いのは悪く,妊娠高血圧腎症の徴候が表れるずっと前に上昇を示すことが知られている。だが,sFlt-1の値が高いだけでは,重度のケースに進行するとは予測できない。

“悪玉”と“善玉”の比でリスクを評価
これらのタンパク質の値が病状とどう合致するかを調べるため,キルパトリックの研究チームは人種的にも地理的にも多様な妊娠23週から35週の高リスク患者1014人を調べた。いずれも高血圧のために都市部または郊外にある18の病院のどれかに入院していた人々だ。

この結果,“悪玉”タンパク質が“善玉”タンパク質の40倍以上だった場合,2週間以内に重度の妊娠高血圧腎症になる可能性が高いことがわかった。この比が40倍未満だと,可能性は5%未満だった。キルパトリックは,この比が10倍くらいなら高リスク患者を在宅のまま経過観察してもよいが,100倍の患者は妊娠高血圧腎症の合併症や早産に対応できる病院に入院させるべきだという。「合併症を伴う非常に厄介な病気の場合,こうしたリスクを知ることの臨床的利点は非常に大きい」とキルパトリックはいう。「私にとって,おそらくこれが最も重要な点だ」。(続く)

続きは現在発売中の2023年7月号誌面でどうぞ。

サイト内の関連記事を読む