カリバチの鋭い護身術〜日経サイエンス2023年7月号より
毒針を持たないオスがメスをまねて交尾器でチクリ
ある種のカリバチのオスが自分の交尾器を敵に対する防衛手段として使い,メスをまねて交尾器についているトゲを敵に突き刺すことが,最近の研究でわかった。
オデコフタオビドロバチ(Anterhynchium gibbifrons)というカリバチの生態を調べていた神戸大学の辻井美咲(つじい・みさき,農学研究科博士課程)はある日,1匹のオスを扱っている際に「チクッと刺されたような痛み」を感じた。最初,刺されたことに驚いた。カリバチを含むハチ目のオスの大半は針を持っていないからだ。だがよく調べると,刺さったのはオスバチの交尾器の両側についている1対の鋭い突起物だった。このトゲは交尾を補助するものではなく,天敵を突き刺すための仕組みであるようだった。辻井と神戸大学の昆虫生態学者,杉浦真治(すぎうら・しんじ,農学研究科准教授)はこのトゲの働きを調べ,Current Biology誌に報告した。
「この研究は敵に対する防衛手段としてのオスの交尾器の重要性を浮き彫りにしており,オスの交尾器の生態学的役割の理解に新たな展望を開いた」と,論文の筆頭著者となった杉浦はいう。
カエルで試食実験
偽針が防衛手段として使われていることを確認するため,この研究チームはメスバチと,完全なオスバチ,交尾器を取り除いたオスバチを,ハチを捕食することが知られているアマガエルとトノサマガエルが入った水槽に入れた。これらのカエルは交尾器のないオスバチ17匹を完食した。トノサマガエルは遭遇したすべてのハチを食べたが,交尾器を除去していないオスバチの35%が偽針でアマガエルを撃退するのに成功,アマガエルは口に入れたハチを吐き出した。メスバチの87%もアマガエルから逃れた。(続く)
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