ソフトロボットの堅固な未来〜日経サイエンス2023年7月号より
ぐにゃぐにゃのソフトロボットが自ら成長の道を歩み始めた
生物のように繊細で柔軟な素材で作られたソフトロボットは,重たい金属ボディーの在来型をしのぐ可能性を持っている。他の惑星をより巧みに探査し,深海の生物をそっと採集し,さらには外科手術を手伝うこともできるだろう。これまでは設計上の難しい問題がいくつかあり,ソフトロボットが研究室を出て実用化するのを妨げてきた。だが最近,自ら成長し自己修復する自動操縦の次世代ソフトロボットが,研究者の高い期待に応えようと動き始めている。
ぐにゃぐにゃの素材でできたソフトロボットは,窮屈なトンネルなど周囲の環境に合わせて変形できる。また,人間の臓器や脆い岩石など壊れやすい物体を押しつぶすことなく扱うことも可能だ。ボディーの大半が硬い素材でできているロボットのなかにも,動きを改善するために軟らかな部品を組み込んだものがある。軽快な身のこなしで知られるボストン・ダイナミクスの歩行ロボットが一例だ。ソフトロボット開発の多くは,タコの柔軟性やクラゲの高い水分含有量など,生物の特性から発想を得ている。そして最近の新たな設計は,それらに比べると少しとらえにくいものを追求している。動物が持っているのに似た自主独立性だ。
「ロボット工学者はこれまでも自律性の科学と工学に焦点を当ててきた」とマサチューセッツ工科大学のロボット工学者・コンピューター科学者ラス(Daniela Rus)はいう。「柔軟なボディー部品の性能が上がり,制御アルゴリズムも進歩した。現在はそれらをもとに,より有能で自己完結的な自律型ソフトロボットが作られつつある」。
損傷を検知して自分で修理
危険な領域を単独で探査する場合,ソフトロボットは硬いロボットよりも破損しやすい。ある研究チームは最近,人間の皮膚が切り傷や刺し傷から回復するのにヒントを得て,小さな損傷からすぐに回復できるロボットを試作した。その結果をScience Advances誌に報告している。
「手先が器用で何年も作業を続けられるロボットができたら,多くの可能性が開ける」と,この論文を共著したコーネル大学の工学者シェパード(Robert Shepherd)はいう。「明らかな用途の一例は宇宙探査で,月面での居住施設の建設や木星の衛星エウロパの海の調査が考えられる。こうした遠隔の稼働環境ではロボットに損傷が積み重なるが,それを修理する人は近くにいないだろう」。(続く)
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