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見事な鼻ほじり〜日経サイエンス2023年6月号より

アイアイの異様に長い指は究極の鼻ほじりを可能にしている

長い指を持つサルが鼻をほじり,指についたねばねばを食べている現場がカメラにとらえられた。

犯人はデューク大学キツネザルセンターにいる「カリ」という名のメスのアイアイで,史上初めて鼻ほじりを記録されたアイアイというありがたくない名誉を得た。加えて,アイアイの中指は異様に長い。鼻から挿入されたカリの中指は,のどまで達した。「本当に驚いた」とスイスのベルン大学の進化生物学者でベルン自然史博物館の哺乳類キュレーターでもあるファーブル(Anne-Claire Fabre)はいう。彼女のチームはこの発見をJournal of Zoology誌に報告した。

ファーブルはキツネザルの指使いを調べるなかで偶然に,カリが“宝探し”をしている姿をとらえた。彼女のチームはほかにも霊長類が鼻をほじる例がないか研究文献を検索し,アイアイ以外に少なくとも11種が“有罪”であることを見いだした。チンパンジーとゴリラ,オマキザル,そしてもちろんヒトが含まれる。鼻ほじりは人間に極めて広く見られ,調査によると10代の若者と成人のほぼ全員がこの習慣を認めている。



鼻ほじりチャンピオン
だが,鼻ほじりのチャンピオンはアイアイだ。その中指は長さが7cmを超え,とても細長い。アイアイはこの奇妙な指を使って,丸太を毎秒7回以上という超高速でトントンたたく。そしてコウモリのような耳で,内部の空洞の音を聞き分ける。虫食いでできたこのトンネルの地図を頭のなかに描き,トンネルの交差点あたりをかじって穴を開け,中指を突っ込んで虫を引っ張り出すのだと,ノースカロライナ州立大学の生物学者ハートストーン=ローズ(Adam Hartstone-Rose,今回の研究には加わっていない)は説明する。ほとんどの動物は指の関節が蝶番(ちょうつがい)関節で,指は前後に曲がるのに対し,アイアイの中指の関節は玉継ぎ手のような球窩関節で,人間の肩のように回転できるという。

鼻ほじりに免疫系を強化するなどの利点があるのではないかと考える研究者もいるが,その説を裏づける科学的根拠はないとファーブルはいう。だがハートストーン=ローズは,霊長類は一般にほじり屋だという。互いに寄生虫をほじり出し,かさぶたをはがし,医師の助言に反して綿棒を耳に突っ込むなど,その器用さを用いて自分や仲間の身を繕う。

「アイアイの指は丸太で器用に“虫釣り”をするために進化したもので,それを可能にした解剖学的構造と感度を,別の行儀の悪い行動に流用しただけだと思う」とハートストーン=ローズはいう。■


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