ウキクサから燃料油〜日経サイエンス2023年5月号より
このありふれた水草はグリーンエネルギー源になりうる
自然環境で最も速く成長する水生植物の一種ウキクサから大量の油を取り出す方法が考案された。そうした植物油を輸送用や暖房用のバイオディーゼルに転換すれば,より持続可能な未来を築くのに大きく貢献できるだろう。
バイオディーゼルを作り出す植物として現在最も広く使われているのはダイズだが,Plant Biotechnology Journal誌に報告された最近の研究はウキクサを遺伝子操作して単位面積あたりの油の生産量をダイズの7倍以上に増やす方法について述べている。この論文の筆頭著者となった米国立ブルックヘブン研究所の生化学者シャンクリン(John Shanklin)は,今後の研究で遺伝子操作ウキクサの産油量を数年内にさらに2倍に増やせるだろうという。彼らはこの研究をニューヨークのコールド・スプリング・ハーバー研究所の研究者と共同で行った。
地中で数億年かけて形成される化石燃料と異なり,バイオ燃料は使用するよりも速く補充できる。製造方法にもよるが,新品や使用ずみの植物油や動物性脂肪,藻から作った燃料は化石燃料よりもカーボンフットプリントが小さくなる。しかし近年はバイオ燃料に対する反発もある。大量の作物が食用ではなくエネルギー用に使われているのが一因だ。バイオ燃料は世界で4000万ヘクタール以上の農耕地を使っている。
ウキクサは南極を除くすべての大陸に見られ,単位面積あたりの増殖量が世界で最も多い植物のひとつだ。研究者は主に3つの理由から,この植物が革新的な再生可能エネルギー源になる可能性があると考えている。第1に,ウキクサは水中でどんどん成長するので,食用作物と農地を奪い合うことがない。第2に,ウキクサは養豚場や養鶏場などから出る汚水のなかで育ち,そうした農場から水系に流れ出る窒素やリンの一部を浄化できる可能性がある。
3つめは,シャンクリンらが発見した方法によってバイオ技術上の大問題を回避できるようになったことだ。ネブラスカ大学リンカーン校の生化学者ロストン(Rebecca Roston,この研究には加わっていない)によると,植物油生産向けに遺伝子操作した植物は通常,油を作り出すのに多くのエネルギーを消費して成長が止まってしまう。これに対し今回の研究では,油を作り出す遺伝子に工夫を加えたとシャンクリンはいう。この遺伝子は最初は不活性だが,植物の成長が完了してから特定の分子を加えて「灯りをつけるようにスイッチを入れることができる」。(続く)
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