中高生が学ぶ サイエンス講義

「はやぶさ」着陸の陰の立役者 〜3M、洗足学園で「反射のサイエンス」講義

2022年に創業120周年を迎えた米スリーエム(3M)社は約13万件の特許を持つ世界的な科学メーカー。その日本法人スリーエム ジャパン(東京・品川)が22年12月、特別講義「反射のサイエンス」を洗足学園中学高等学校(川崎市)で開催した。

ビー玉が明るく写る理由
最初に日本法人社長の宮崎裕子氏が登壇し、3Mが「人々の暮らしをより豊かにする」ためにサイエンスを活用し、社会の課題に取り組んでいることを紹介。サイエンスの力でイノベーションを起こすことの重要性について語った。

それを受け、同社コーポレートR&Dオペレーション統轄技術部長の宇田川敦志氏が、「持っている技術を製品に生かし、皆さんのお役に立てるようにすることをイノベーションと呼んでいる」と説明。接着など51種類の基盤技術を組み合わせることによって画期的な製品づくりができるという。

その後、トランスポーテーションセーフティ技術部に所属する入社3年目の本宮香純氏が本テーマに入った。
光は地球上で「吸収」「透過」「反射」「屈折」の4つの性質を示す。リンゴが赤く見えるのは太陽の可視光がリンゴの表面に当たると赤以外の光が「吸収」され、赤い光だけが「反射」するからだ。雨上がりの空に虹が見えるのは、太陽光が空気中に浮遊する水滴に「屈折」して入り、水滴の裏側で「反射」してから再び「屈折」して外へ出る。光の波長の違いに応じて7色に見える。

このうち反射には、「乱反射」「鏡面反射」「再帰性反射」の3つがある。コイン、ビー玉、鏡に対してスマートフォンのフラッシュをたいて、それぞれ真上と斜めから写真を撮る実験を行った。その結果、コインは真上、斜めとも暗く写ったが、それはコインの表面が凸凹していて光が「乱反射」したため。ビー玉は真上、斜めとも明るく写った。これは光が元に戻ってくる「再帰性反射」の性質によるため。鏡は真上から明るく写るが、斜めだと暗く写る。入射角と同じ角度で光が反射する「鏡面反射」のせいだ。

誤差40センチ以内で着陸
3Mには再帰性反射の技術を使った製品がたくさんあるという。宇宙探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に着陸する際、目印となるターゲットマーカーと呼ぶ道具を使った。「表面に3M製の再帰性反射シートが巻いてあり、はやぶさがイトカワに投下したマーカーから反射した光を頼りに誤差40センチ以内で着陸に成功した」と本宮氏は解説。

道路標識、道路脇の白い路面標示材、路上工事看板や作業者の安全服などにも3M製の再帰性反射シートが使われているという。そこで反射シートの反射性能を測定する実験に移った。反射性能は反射率cd/m2/lxで表される。ライトでシートを照らした時、「輝度cd/m2(反射シートから測定器に届いた光)」を「照度lx(反射シートに届いた光)」で割った値だ。

 生徒たちはビーズ型反射シートとプリズム型反射シートの反射率を測る実験を行った。その結果、新しいプリズム型の方が古いビーズ型より10倍程度、反射性能が高いことが分かった。

「物理の授業で光を習ったばかりで理解が深まった」「理系職のイメージがわかなかったが、授業を聞いて理系に興味を持った」といった生徒の声が聞かれた。■

 

※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社