TDK、量子と磁石の魅力語る 〜日比谷高校、専門的な質問で議論は白熱
TDKは東京都立日比谷高等学校(東京都千代田区)の生徒を対象にした特別オンラ イン講義を2022年12月に開いた。若手研究者2人が高速計算機の期待が高い量子アニーリングや超強力磁石の魅力を 熱く語り、高校・大学生時代の基礎的 な学びが今の仕事に役立っていると伝えた。
巡回セールスマン問題と計算処理
第1部は応用製品開発センターに所属する浅井海図氏が「数学と物理と情報理論が出会う場所」という題で、量子計算機の一つである「量子アニーリング」について講義した。
浅井氏はまず2022年のノーベル物理学賞の受賞テーマが量子情報理論の分野であると紹介して、とても盛り上がっている分野で興味があれば勉強してくださいと学生に語りかけた。「量子とは何か?」という言葉の説明から、研究者ならではのジョークなどを交えながら、量子アニーリングを使った最適化問題の解き方について詳しく伝えた。
まず応用例として茨城県つくば市から、日比谷高校の最寄り駅、東京・赤坂見附駅まで最も短い時間で移動する道順を調べる「最短経路問題」や複数の顧客を回って帰る「巡回セールスマン問題」を挙げ、問題解決の1つとして量子アニーリングのようなヒューリスティックス(ある程度正解に近い解を見つけ出すための経験則や発見方法)を活用する方法もあると解説した。
「数学が大好き」という浅井氏は数学を勉強する意義について、「色々な物事に共通する性質を抽出して理論を構築したのが現代の抽象的な数学だから役立つのは自明の理である」と強調したうえで、「義務感で勉強しても身につかないので興味があることを全力で学んでいくのが一番楽しい」とアドバイスした。
浅井氏の講義の後に、生徒から量子アニーリングの用途について質問が出た。浅井氏は「何に使えるのか、あるいは使えないのかを探っている」と答えた。
高性能磁石開発とEVの性能向上
第2部は材料研究センターの劉麗華 氏が「磁石のフシギ」と題して講義し た。劉氏は中国江蘇省出身。3歳離れた姉が材料のエンジニアだったため、姉に対するライバル意識から材料科学に興味を持ち研究者を目指した。
筑波大学大学院で博士号を取得した後、TDKに入社。事業をグローバルに展開するところが決め手となったと話した。
磁石の主な用途はモーターと発電機で、家電やパソコン、自動車などの製品の中に部品として組み込まれていると紹介。磁石の高性能化によってハイブリッド車のモーターの小型化や高速回転化が進んできたと語った。
講義では日本人研究者が開発した史上最高の磁力を持つネオジム磁石を中心に、研究開発の取り組みや将来性を解説した。特に熱に強い磁石が開発できれば、電気自動車の性能が高まるとした。
劉氏の講義の後に生徒から「熱によって磁力を失った磁石が磁力を取り戻すことができますか」や「磁気モーメントを持たない反磁性体はどうしてないのか」といった専門的な質問が相次いだ。質疑応答は20分近くに及び、白熱した。他にも「アルゴリズムの奥深さがわかった」「磁石はまだまだわからないことが多く興味がわいた」「身近な問題から始まり、理論を通して身近な問題に帰着していてわかりやすかった」「一点突破アルゴリズムがかっこいい」などの感想があり、大いに刺激を受けていた。 ■
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社