「第2の地球」に広がる景色は〜日経サイエンス2023年4月号より
生命の兆候を探索できる有力な惑星が見つかった
地球はいくつもの偶然から生まれた奇跡の星——。大気や水,適度な気温は幸運がもたらし,生命を育む地球は特別な惑星と考えられてきた。だが,はるかかなたの宇宙を観測できるようになり,生命がいるかもしれない惑星は意外に多いことがわかってきた。日本などの国際研究チームは2022年,生命の兆候を探索できる太陽系の近くに有力な惑星を発見した。「第2の地球」にはどのような景色が広がっているのか。地表を覆う植物などの生命の兆候を探る取り組みも始まっている。
太陽系近くで探索進む
太陽系にある8個の惑星のうち生命が繁栄しているのは地球だけだ。熱や光を放つ太陽からほどよい距離にあり,暑くも寒くもない。この「ハビタブルゾーン」という領域にあるからこそ,生命に欠かせない液体の水が存在して生命が生まれた。太陽のような熱や光を放つ恒星に近ければ熱すぎ,遠ければ寒すぎる。ほどよい距離にある幸運はそう多くないはずだった。
そんな見方を変えたのが観測技術の進歩だ。2009年に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡の観測などによって,太陽とは別の恒星を取り巻くハビタブルゾーンにある第2の地球の候補はこれまでに約20個も見つかっている。天の川銀河全体では統計的に100億個以上になる計算だ。2018年には米航空宇宙局(NASA)の観測衛星TESSが探索を始め,今後10年で太陽系の近くでさらに20個ほど発見できる見通しだ。
TESSは恒星の前を横切った惑星の影をとらえる。このトランジット法という手法で,生命が存在しうる惑星の候補を見つけ出す。TESSによる観測だけでは,まだ惑星とは言い切れない。2個の恒星が互いに重なって隠してしまう食連星の可能性もある。地上からさらに詳しく調べる追観測によって,初めて本物の惑星を見抜ける。
赤色矮星の前を通過する惑星のイメージ。異なる波長でも同じように光が弱くなったため,
惑星であると判別できた。画像:アストロバイオロジーセンター・MuSCATチーム
日本などの国際研究チームは2022年,ハビタブルゾーンの中にある地球サイズの惑星を地上の望遠鏡でとらえたと発表した。本物の惑星を効率良く判別できるMuSCAT(多色同時撮像カメラ)を開発したことがポイントだ。TESSが見つけたハビタブルゾーンにある惑星では2個目で,地球からは約100光年先にある。MuSCATを開発した日本チームを率いる東京大学の成田憲保教授は「生命の兆候は遠くにある星では見えない。太陽系の近くにあることが重要だ」と話す。(続く)
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