ハーモニック・ドライブ・システムズ〜小山高専生に革新歯車の宇宙用途を講義
産業用ロボットや宇宙機器に使われる精密減速機について学ぶサイエンス講義が2022年12月、栃木県小山市の小山工業高等専門学校で開かれた。製品名が社名になっているハーモニック・ドライブ・システムズの設計部主任技師、黒木潤一氏と同設計部、赤坂拓也氏が特別講義を行った。
東京・名古屋間の高低差1mm以内
米国ハワイ島にある日本の国立天文台の「すばる望遠鏡」。口径8.2mの主鏡は厚さが20cmしかなく、自重でゆがんでしまうため、261本のアクチュエータ(駆動装置)で裏側から主鏡を支え、ゆがみを補正する。その精度は、鏡の直径を東京・名古屋間の距離にたとえると、高低差を1mm以内にするというもの。これを実現する機構に減速機「ハーモニックドライブⓇ」が使われていると黒木氏は説明する。
ハーモニックドライブⓇの部品は3つしかない。楕円形のウェーブ・ジェネレータを薄肉のフレクスプラインにはめる。フレクスプラインは強度と精度を得るため削り出し加工し、外側には歯車が切ってある。この2つの部品を、内側に歯車を切ったサーキュラ・スプラインにはめる。
楕円形のウェーブ・ジェネレータが時計方向に回転すると、長軸付近の複数の歯車が噛み合い、短軸付近では歯車は完全に外れる。真円だったフレクスプラインは弾性変形しながら歯車の噛み合う部分が移動していく。歯数はフレクスプライン側が2枚少ない。ウェーブ・ジェネレータが1回転した時、フレクスプラインはサーキュラ・スプラインより歯数が2枚少ないので、その分だけ反時計方向へ移動し、この差分を出力として取り出せる。
フレクスプラインの歯車がサーキュラ・スプラインの歯数より2枚少ないのがミソ
フレクスプラインの歯数を100、サーキュラ・スプラインの歯数を102にすると、50分の1の減速比が得られる。「歯数を変えるだけで減速比が変わるのが特徴。減速機を小型・軽量化できる」と黒木氏は解説する。
ほぼすべての人工衛星に搭載
ハーモニックドライブⓇの用途は広がっている。産業用ロボットをはじめ、宇宙機器に数多く使われる。米航空宇宙局(NASA)の火星探査車2台にそれぞれ19個のハーモニックドライブⓇが使われた。また、ほぼすべての人工衛星で太陽光パネルの駆動部に採用されている。日米欧加などの連携により2025年以降に月面に人類を送る「アルテミス計画」では、月面探査車の開発でも応用検討が進む。
続いて赤坂氏が大学院進学と就職について述べ、「腰を据えて研究したいと思い大学院へ進学した。就職先は、いろんな業界に携われ、技術の中心を担う製品を提供できる会社がいいと考え、それを実現できるハーモニック・ドライブ・システムズに決めた」と話す。
小山高専はロボットコンテストの強豪校だ。「精度と小型化を追求できるのは魅力」「歯数だけで減速比を変えられるのは革命的」といった声が聞かれた。
黒木氏は「このような機械が日本の産業を支えており、その産業を近い将来支えるのが皆さんです」とメッセージを送り、講義を締めくくった。
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社