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紙の電池で電子ごみ削減〜日経サイエンス2023年3月号より

水で湿らすと起動し,使い捨てにしても無害

廃棄された電子機器が急速に増えており,この「電子ごみ」を削減する独創的手法の探索が急務になっている。あるチームは最近,紙などの持続可能な材料でできた電池を作った。水で湿らすと活性化し,使い捨てにしても害がない。

電子機器のケースとして使われているプラスチックや金属はもちろん,電線や表示画面,電池などの部品が有害廃棄物として埋め立て処分場にあふれている。古い折り畳み式携帯電話やエアコンなど,電子ごみの一部は比較的大きい。その他は小ぶりだがもっと厄介な電子ごみで,1回だけ使われて捨てられる電子式医療診断キットや環境センサー,スマートラベルなど,使い捨て電池その他の部品を含んでいるものだ。

「大きな問題となっているのはこれらの小さな電池だ」と環境保全技術者で大手技術企業の顧問を務めるカリフォルニア大学アーバイン校の公衆衛生科学者オグンセイタン(Dele Ogunseitan,今回の電池の開発には関与していない)はいう。「これらの電池が行きつく先には誰も目を向けていない」。



電極と電解質を1枚の紙に
スイス連邦材料試験研究所(Empa)にあるセルロース・木質材料研究所の研究チームはこの問題への対処に取り組んでいる。同チームがScientific Reports誌に発表した新たな論文は,水を加えて活性化する紙の電池について述べている。環境に優しい材料を使っており,最終的には,低電力機器によく使われている有害な電池の代替品になる可能性がある。

この紙電池で起電力を生み出す基本的な部品は標準的な電池と同じだが,パッケージングの手法が違う。この電池も典型的な化学電池と同じく,プラスに帯電した正極とマイナスの負極,両者の間に電解質と呼ばれる導電材料がある。従来の電池の場合,これらの部品がプラスチックと金属の容器に収まっているが,新電池では1枚の紙の表と裏に印刷されたインクがそれぞれ正極と負極になる。その紙に食塩を含ませてあり,紙を水で湿らせると塩が溶解する。こうして生じた食塩水が電解質として働く。

無毒で豊富な材料だけで電池を作るには,持続可能な材料を使うことが前提条件となった。「最終的に機能するものができるだろうとの確信は十分にあったが,実際に材料やインク系を開発するのは決して容易ではなかった」と研究論文の上席著者となったセルロース・木質材料研究所の所長ニストロム(Gustav Nyström)はいう。同チームは電池部品の構成を数百通り試した後,正極にグラファイト(黒鉛)インク,負極に亜鉛インクを使い,食塩を含ませた紙で電解質を作ることに決めた。(続く)

続きは現在発売中の2023年3月号誌面でどうぞ。

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