仲間と一緒に歩いた恐竜〜日経サイエンス2023年3月号より
ティラノサウルスの子供がペアで歩いていた証拠が見つかった
巨大な肉食恐竜ティラノサウルス類の幼少期はあまり知られていない。孵化したての幼体の化石はまれで,背丈が30cmほどの時代を知る手がかりはほとんどない。だが最近,約7200万年前の岩に見つかった小さな足跡化石から,ティラノサウルスの子供がペアで行動していた証拠が得られた。
カナダ・アルバータ州の南西部にあるセントマリーリバー累層を調べていた古生物学者たちが一連の足跡化石を発見した。現場には多くの種の恐竜による足跡化石が豊富に残っており,「まるで繁忙期のビーチだ」と,ロイヤル・ティレル古生物学博物館の研究者ヘンダーソン(Donald Henderson)らはCanadian Journal of Earth Sciences誌に報告している。そのなかに,2頭一組で移動したと考えられる恐竜の小さな足跡が7列あった。「小さな足跡の形と歩幅から,孵化したばかりのアルバートサウルスかゴルゴサウルス(いずれもティラノサウルス科の恐竜)のものだと考えられる」とヘンダーソンは述べる。足跡に残るとがった爪の先が肉食恐竜であることを示しているという。
集団行動の証拠
ティラノサウルス類の行動に関する既存の知識は,大半がこの恐竜に噛まれた骨の化石か,数少ない足跡化石から得られたものだ。ティラノサウルスどうしが戦う際に相手の顔に噛みつき合っていたことが傷ついた頭蓋骨からわかっているほか,ブリティッシュコロンビア州で見つかった足跡化石は成体が時には一緒に行動していたことを示している。「ティラノサウルス類は獲物をむさぼり食うマッチョな殺傷マシンではなかった」と,足跡化石の専門家バックリー(Lisa Buckley,今回の研究には加わっていない)はいう。新発見の足跡化石は,幼体が巣を離れた後にグループを作ったことをうかがわせる。一部の植物食恐竜のほか,現生のワニや大型の陸鳥も同様の行動を示す。
この足跡は別の肉食恐竜種のものである可能性もあるが,いずれにしろ今回の発見で恐竜の生活に関する情報が増えたとバックリーはいう。「どの獣脚竜恐竜のものであれ,報告された足跡は集団行動の証拠であり,実に興味深い」。■
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