イルカの名前〜日経サイエンス2023年2月号より
個体識別用の鳴き声の多様性が詳しく調べられた
イルカの鳴き声に「シグネチャーホイッスル」と呼ばれるものがある。仲間に自分を識別してもらい,自分に関する情報を仲間に伝えるために使う“名前”のようなもので,これまで調べられてきた動物のコミュニケーションのなかでも最も複雑なもののひとつだ。最近のある研究は,このシグネチャーホイッスルがそれぞれの個体や状況によってどれくらい異なっているかを定量化した。
専門家はイルカが仲間に呼びかける声を長期にわたって収集することで,そのなかからその個体のシグネチャーホイッスルを特定している。イルカはシグネチャーホイッスルの一節を反復したり,音の高さを変えたり,短い部分を付加あるいは削除するなどして,この声を大きく変えている。最近のFrontiers in Marine Science誌に発表された研究はそうした変化を,約300頭のイルカから40年にわたって集めた1000件近い録音事例のデータベースを使って評価した。
他の動物との比較も
シグネチャーホイッスルの変動性を計算して他の動物種(特に鳥類)の鳴き声と比較するため,論文の著者たちは統計的指標に基づいて,音の長さや頻度,ピッチ,パターンなど21種の特徴を評価した。各個体がそれぞれの鳴き声でこれらの特徴を大きく変化させるほど,また個体間での差が大きいほど,その動物種に高いポイントを与える方法だ。
他の動物種との比較をまとめた最近の別の論文では,ハンドウイルカの識別音の多様さが最大で,2番目はヒバリとなった。人間がどこに位置するかについては,研究者の間でまだ統一見解がない。
この指標は異種間の比較をするのに適していると,イルカに関する研究論文の筆頭著者となったウッズホール海洋研究所の海洋生物学者サイーグ(Laela Sayigh)はいう。だが,この21種類の特徴だけではイルカの鳴き声の本当の複雑さのほんの表面しかわからないと指摘する。この“粗い”指標を用いた評価でも「イルカは個体の区別を最もはっきりつけるコミュニケーションをしている」のだから,「本当はもっとすごい」という。(続く)
続きは現在発売中の2023年2月号誌面でどうぞ。