地質活動が微生物をミックス〜日経サイエンス2023年2月号より
岩が割れると微生物集団が一変
地下1000mを超える場所でも,地球は微生物であふれている。長い間,帯水層や地熱井に生息するこうした地下の微生物集団に生態学的な変化はほとんど見られないだろうと考えられてきた。だが最近の研究は,地下の微生物集団が実際にはかなり動的であり,集団を構成する微生物種が数百年ではなく数日で変化することを示している。そして圧縮や膨張による岩石の割れといった地質活動が,そうした変化の背後にあるらしい。
地下に生息している水生の細菌とウイルスは,太陽放射や天候の変化,隕石衝突といった生態系を乱す要因から隔離されている。栄養や太陽光の入手が限られているため,成長や進化のペースは非常に遅い傾向がある。スタンフォード大学のエネルギー資源工学者チャン(Yuran Zhang)は地熱帯水層の間の水流を調べるなかで,微生物をトレーサー(追跡用の目印)として使うことを思いついた。地下で水がたまっている部分は通常互いに離れているので,そこにいる微生物のDNAが格好の“署名”となってそれぞれの帯水層の水を識別できるだろうとチャンらは考えた。進行中の工事を通じ「そうした貴重な水のサンプルを入手する道がすでに整っていた」とチャンはいう。「だからもう問題解決だ」。
意外な展開
チャンのチームは地下帯水層につながる3つの掘削孔から水を汲み上げて解析し,その結果を米国科学アカデミー紀要に報告した。10カ月にわたって毎週1回サンプルを採取し,それぞれに含まれるDNAを解析して,どの微生物が存在しているかを特定した。最初のうち,それぞれの小さな生態系の微生物構成は確定しているように見えた。だが驚いたことに,岩石破砕事象によってサンプル採取場所に亀裂が生じた後には,微生物構成を示す特徴が急変した。
チームは岩石破砕事象が帯水層の微生物生態系をものの数日で一変しうることにすぐに気づいた。孤立した帯水層の間で小さな水路が閉じたり開いたりしているのだ。「私たちのこの結果は興味深い。微生物集団を形成する従来とは異なるメカニズムを示しただけでなく,はるかに速いペースで働く仕組みを見いだした」と論文の上席著者となったスタンフォード大学の微生物学者デカス(Anne Dekas)はいう。(続く)
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