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共食い行動を誘うもの〜日経サイエンス2023年2月号より

個体密度が重要な因子らしい

互いをのみ込むアメーバから子グマを食べるホッキョクグマまで,共食いは自然界に広く見られる。だが,これは食物を得る方法としてはリスキーだ。同じ種の動物は体を守る免疫の仕組みが似ており,共食いを通じて病気まで共有してしまう恐れが大きい。そして自分の子を食べてしまったら,子孫を残せなくなる。ではいったい何が,一部の動物に一線を越えさせているのか?

「ほぼすべての捕食動物が,状況が厳しくなると共食いをする」とカリフォルニア大学デービス校の昆虫学者ローゼンハイム(Jay Rosenheim)はいう。草食動物も絶体絶命の苦境では共食いする場合があると付け加える。ローゼンハイムはカリフォルニアの綿花畑で,ほかに獲物がたくさんいるにもかかわらず捕食昆虫のオオメカメムシが自分の卵を食べ始めたのを見て,動物を共食いに導くきっかけを調べることにした。

「個体密度が共食いのスイッチを入れる重要な要因になっていることが多い」とローゼンハイムはいう。彼のチームは30年分以上の先行研究の結果を総合して,個体密度と共食いを結びつける数理モデルを開発した。Ecology誌に報告。


カマキリは交尾後に相手のオスを食べることで知られている。

個体密度と資源量
「ばかげた話に思えるが,これまでの理論モデルの多くは実のところ,個体密度依存性を考慮に入れていなかった」と,共食いカエルを研究しているフィンランドのユヴァスキュラ大学のフイユ(Chloe Fouilloux,今回の研究には加わっていない)はいう。一部のモデルは個体密度を部分的に取り入れていたものの,今回の数理モデルは個体密度に関連する変数に主な焦点を絞っている。動物が互いに遭遇する頻度や,遭遇が攻撃につながる確率などの変数だ。

研究チームはさらに,個体密度が共食いを誘発する道筋を整理した。当然ながら,その場の資源不足が主要な因子となる。「飢餓は共食いを仲介するほぼ普遍的な要因だと考えてよいだろう」とローゼンハイムはいう。飢餓がある種の神経ホルモンを急上昇させて攻撃性を高め,共食い行動を誘発している可能性を示唆した研究例があり,それと合致する。(続く)

続きは現在発売中の2023年2月号誌面でどうぞ。

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