折紙のタイヤで車は走れるか? 〜明治大学、学芸大附属高校で折紙の魅力を語る
紙を折って鶴や兜(かぶと)を作る折紙は子どもの遊びの一つ。その折紙を大学の機械工学科でなぜ研究するのか。明治大学理工学部機械工学科の石田祥子准教授は2022年9月26日、東京学芸大学附属高等学校(東京・世田谷)で特別授業を実施。折紙には「形が大きく変化すること、軽くて硬い構造を作れること」などの魅力があると語りかけた。
例えば、身近にある折りたたみ傘。小さく折りたたんで持ち運べ、形が大きく変化することの応用例だ。この種の折り方をしたのが宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発したソーラーセイル(宇宙帆)。ロケットで打ち上げるときは超薄膜の帆を小さく折りたたみ、宇宙に行ってから大きく展開する。
折紙は海外の大学でも研究されている。米マサチューセッツ工科大学(MIT)と米ハーバード大学が研究するのは、その名もズバリ「折紙ロボット」。複雑な形の折紙にモーターが付いていて、平らな状態から徐々に立体に組み上がり、歩き出す。その様子を動画で見た生徒から思わず驚きの声が上がった。
もう一つの魅力、軽くて硬い構造を作れる特徴を生かしたものとして、ダイヤモンド模様を施した飲料缶がある。硬くできるため缶を薄くして材料を削減し、省エネ・省コストに役立つ。
石田准教授は折紙の魅力を生かした応用例を数多く紹介しながら、その社会的な広がりについて詳しく紹介した。
人がゾウを支えて歩くのと同じ!
石田准教授が研究室の学生と挑んだのが「折紙で作ったタイヤで車は走れるか」という大胆なテーマだった。
「折紙で軽くて硬い構造を作れることを誰かに伝えたいと思ったとき、どんな内容なら伝わりやすいか。折紙でタイヤを作り、車を走らせたらすごいかもしれない」と石田准教授は考えた。
折紙タイヤ作りは学部生8人、大学院生4人と取り組んだ。タイヤが回転しても荷重を支えられるように、複数の案からハニカムコア構造を採用した。
リング状の紙に山山谷谷と繰り返し折り目を付けていく。木工用ボンドで貼り合わせてタイヤの厚さにする。車は重さ1tある。前方にエンジンがあるため、前輪で600キログラム、後輪で400キログラムを支えるようにした。
結果はどうか。時速3kmで10m走ることに成功。わずか7kgの折紙タイヤで1tの車を支え、走行できたのだ。
「体重60kgの人間に例えると、8tのアフリカゾウを支えて10m歩いたことと同じ」と石田准教授は解説する。
講義の最後に生徒たちは、数学を用いて設計した折紙に実際に触れ、2次元から3次元に形を大きく変える折紙工学を体感。「複雑な形に折るのに、職人の勘ではなく、数学を使って条件を決められるのは参考になった」「紙でタイヤを作り、車を走らせたのには驚いた」といった生徒の声が聞かれた。
石田准教授は「折紙を折紙として捉えていると新しいアイデアは生まれない。固定観念を払拭し、自由に発想することが大切」と強調する。そのためには数学や物理の知識が必要だと語る。「今やっている勉強は将来に必ず結び付く。進みたい道や夢を想像しながら頑張ってほしい」とエールを送った。■
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社