氷が火山の揺れを増幅〜日経サイエンス2023年1月号より
通常は検知できない小さな火山性微動を共鳴によって強める場合がある
研究者は地下で動くマグマの振動音を手がかりに,迫りくる火山噴火を予測している。だが氷で覆われたアイスランドの火山の場合,標準的な地震計では地下で起こっていることの概略しかわからない。ところがスイス連邦工科大学チューリヒ校の地震学者フィヒトナー(Andreas Fichtner)らは最近,火山を覆い隠している同じ氷床が,本来なら検知できない地震信号を増幅する場合があることを示した。
アイスランドで最も活動的な火山であるグリムスヴォトンは欧州最大の氷河によって完全に覆われている。近代では約10年に1回のペースで爆発的噴火を起こしており,洪水や危険な火山灰雲を生じた。フィヒトナーらはグリムスヴォトンの活動と構造を調べるため,火山とその周囲の地盤の振動を常時リアルタイムで計測する長さ12.5kmの光ファイバーケーブルを2021年5月に敷設した。光パルスがケーブルの中をどのように伝わるかを追跡し,経路上のすべての地点での地盤振動を描き出した。
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解析の結果,1カ月足らずの間に2000回近くの地震が検知された。これに対しアイスランドの全国地震ネットワークが記録した地震は18回だったと,The Seismic Record誌に掲載された今回の研究論文を共著したアイスランド気象庁のヨーンスドッティル(Kristín Jónsdóttir)はいう。またチームは,同火山の中央部にあるカルデラ湖に浮かぶ氷から,奇妙なリズミカルな振動を記録した。
微動を検知可能にする“拡大鏡”
あらゆる固体と同様,氷床もある決まった固有振動数で揺れる。この振動数に一致した別の揺れが外部から加わると,振動は増幅される。屋外の道路工事で使われている削岩機が台所のテーブルをガタガタ揺らすのと同じだ。研究チームは,湖の氷から検知された不思議なうなりが火山活動や地熱活動によって生じる火山性微動という小さな地震に由来すると提唱している。火山性微動はカルデラの近くで最も顕著で,噴火が起こる可能性を示している場合がある。
「氷床の共鳴が拡大鏡として働いている」とフィヒトナーはいう。本来は観測できない小さな揺れを検知可能なレベルまで増幅しているのだ。「我々が知る限り,これは過去に観測されたことのない現象だ」。(続く)
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