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ヤドリギ接着剤〜日経サイエンス2023年1月号より

この寄生植物は優秀な生物接着剤になる

ヤドリギと聞くと,クリスマスシーズンのキスを連想する人が多い。だが,この植物はそのずっと昔から長い間,驚異的な粘着力で広く知られていた。古代のギリシャ人やローマ人は,ねばねばしたヤドリギの実を,鳥もちから皮膚に塗る傷薬まで様々な用途に使っていた。最近の生化学研究は,ヤドリギが合成接着剤に代わる自然由来の接着物質になるかどうかを調べている。

寄生植物のヤドリギにとって,粘着力は不可欠だ。個々の実のなかに,「ビスシン」という粘液のような物質で覆われた種子がある。鳥が実を食べて消化した後,この物質で種子がつながったひも状の糞が排泄され,木の枝から垂れ下がって,種子を適当な場所に付着させる。発芽したヤドリギは木に寄生根を食い込ませ,宿主から水や養分を吸い上げる。

ねばねばに包まれたセルロース
この自然の接着剤に強力な粘り気を与えているものを見極めるため,加マギル大学の化学生物学者ハリントン(Matt Harrington)と独マックス・プランク・コロイド界面研究所の研究者は,ドイツ国内のリンゴの木に寄生しているヤドリギを収穫した。ピンセットを使って実からねばねばしたビスシンを取り出し,詳しく調べた。



チームはビスシンの構造が他の接着剤と明らかに異なることを発見し,PNAS Nexus誌に報告した。合成接着剤の多くが粘着性の化学物質が混ざり合った液体であるのに対し,ビスシンはセルロースの堅い糸でできており,これで対象をしっかりとつかまえる。セルロースの糸は湿度に敏感な被膜に包まれており,これによって非常に伸びやすくなっている。湿度が高い場合,長さ5mmほどのビスシンの糸を2m以上に伸ばすことができる。これが乾燥すると,ねばねばがセメントのように固まる。「湿度に反応するこの多機能な仕組みにはまったく驚かされた」とハリントンはいう。

研究チームはビスシンが頑丈なうえ(ヤドリギの種子の50倍の重さを支えられる),ほぼ何にでもくっつくことを発見した。樹皮や羽毛に付着するのに適しているが,皮膚を含めほぼどんなものにもくっつく(手についたビスシンは水洗いではとれないが,ハリントンによると,手をこすり合わせると,その熱と湿気でゆるむという)。

ビスシンは傷口をふさぐ生分解性の材料として利用できるだろうと研究チームはいう。彼らは地元の肉屋から調達した豚肉に切り傷をつけ,ビスシンを試した。ビスシンがひとたび乾くと,力を加えても傷口は閉じたままに保たれた。(続く)


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