小さいのに力持ち減速機の不思議 〜ハーモニック・ドライブ・システムズが川越女子高生に解説
産業用ロボットや宇宙探査機に使われる減速機の仕組みを学ぶサイエンス講義が2022年9月、埼玉県立川越女子高等学校(埼玉県川越市)で開かれた。減速機メーカー、ハーモニック・ドライブ・システムズ設計部主任技師の黒木潤一氏と同設計部の赤坂拓也氏が、減速機が宇宙開発にも重要な役割を果たしていることを紹介した。
歯車調整で100倍力もロボットに不可欠
同社の減速機「ハーモニックドライブ®」は社名の由来にもなっており、ともに楕円形となっている回転部品(下図:ウェーブ・ジェネレータ)と薄肉の歯車(下図:フレクスプライン)、真円となっている外輪の歯車(下図:サーキュラ・スプライン)の計3つの部品で構成する。薄肉の歯車は、金属の弾性変形を利用してたわむよう設計されている。真円の歯車は歯の数を薄肉の歯車より2枚多くしてある。
たわみのある薄肉の歯車の短径部分と、外輪の真円歯車の間にできる隙間を利用。
歯の数が違う分互いに逆方向にずれる
楕円の回転部品を薄肉の歯車に組み込み、歯車ごと楕円に変形させる。この状態で真円の歯車とかみ合わせると、楕円の長軸部分の歯が真円の歯車とかみ合い、短軸部分でかみ合いがはずれた状態になる。楕円の回転部品を回すと薄肉の歯車がたわみながら順次かみ合い、歯の数が違う分だけずれる。薄肉の歯車の歯が100個、真円の薄肉の歯車の歯が102個の場合、楕円形の回転部品が時計回りに50回転すると、薄肉の歯車は反時計回りに1回転動き、50分の1の減速比になる。減速比に反比例し、外輪の歯車には50倍の力が伝えられる。黒木氏は「歯が200と202の歯車の組み合わせであれば減速機で100倍の力を得られる。モーターの小型化、ひいては取り付けられる製品の軽量化につなげられる」と説明した。
生徒たちは減速機のサンプルなどにも触れ、「このように歯がずれて回転していくのか」などと話していた。
黒木氏は通常の歯車では歯がうまくかみ合うよう、歯の隙間が必要だが、独特の構造のハーモニックドライブ®は隙間が不要という特徴もあげた。「位置決め精度が非常によくなり、高精度の動きが必要なロボットや半導体製造装置に広く使われている」と説明した。黒木氏は溶接などの産業用ロボット、人間のような動きをするロボットなど、同社製減速機を搭載している製品を動画でも紹介した。
米火星探査機にも搭載
黒木氏は同社の減速機の宇宙開発での貢献も紹介。国際宇宙ステーション(ISS)や米航空宇宙局(NASA)の火星探査機のロボットアームや、日本の小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」のエンジンなどにも搭載されている。「主要な動く部分で使われている」と駆動部分で重要な役割を果たしていることをアピールした。
黒木氏自身も宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究を担当。「宇宙開発では軽量化、高精度で、大気のない月面であればセ氏マイナス233度からプラス123度の環境に耐えながらミッションを完遂することが求められる」と述べた。
今後同社が引き続き宇宙開発事業に積極的に取り組んでいくとしたうえで「普段目にすることがない減速機のような機械が日本の産業を支えている。この産業をさらに発展させていくのが皆さんです」と締めくくった。
質疑応答では「減速ではなく、増速させることで自転車に利用できないのか」などの質問が相次いだ。講義を聞いた生徒からは「身近なものも含めて減速機が様々なところで使われていることがわかった」「日本のこうした精密技術をもっと世界に打ち出していくべきだ」などの声が聞かれた。■
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社