清水建設の地震・台風対策 〜学芸大附属高校、先端装置も見学
激甚化する自然災害から人々の暮らしをいかに守るか。清水建設の技術研究所(東京都江東区)で2022年8月、特別講義「高い建物の防災対策」が開かれた。参加した東京学芸大学附属高等学校の生徒たちは講義後、普段は見られない先端的な実験装置を見学した。
安全だけでなく安心も
「まち、人、暮らしの空間をつくる」。シミズ・オープン・アカデミー推進室の内山伸(のぶる)主査は、清水建設がつくるものをこう定義する。
建物には「安全」「機能」「環境」「意匠」の4要素が求められるが、人々の要望は時代によって変化する。「安全」では物理的な安全のほか、「安心」感が求められる傾向にある。「機能」や「環境」でも、ウェルビーイングや多様性、SDGsや脱炭素化などへの要望にも配慮する必要があるという。
本題は「地震と台風の対策」だ。まず地震対策。現行の耐震基準にそった建物は、関東大震災レベルで倒壊しないつくりになっている。さらに、地震直後に事業やインフラが機能すること、超高層ビルで揺れを極力減らすことへ向けて継続的に研究が重ねられている。 地震対策のキーワードとして「建物の固有周期」と「共振」の2つが挙げられた。固有周期とは建物の水平変位が最も大きく発生する、その建物特有の周期である。建物が重くなるとゆっくり揺れ(固有周期が長くなる)、建物が硬くなると素早く揺れる(固有周期が短くなる)。
一方、共振とは建物と地震の周期が合致する時に起こる現象で、揺れが増幅されやすく建物の壊れる可能性が高くなる。これら建物の揺れの特性に応じた地震対策として、頑丈につくる「耐震」、ダンパーで揺れのエネルギーを吸収する「制震」、積層ゴムなどで地震の力を減らす「免震」の3つが示された。
もう1つは台風対策だ。高い建物では「耐風構造」、「揺れ低減」、「ビル風」が検討されるという。流体(風)が流れる時、風が建物に当たると速度は落ちるが、その分、圧力は強くなる。建物の横を通り抜ける時は速度が増し、建物の後ろ側では渦を巻く。建物は押されるだけでなく引っ張られることにもなる。建物自体の揺れは建物が高くなるほど大きくなる。
小型風洞実験装置で風速20m/sを体感 後半は先端地震防災研究棟、風洞実験棟を中心に見学ツアーを行った。先端地震防災研究棟には、世界最高水準の2つの振動台がある。縦横7m 、揺れ幅±80cmの大型振動台「E-Beetle」は、過去に発生した世界中の地震を再現できる。もう1つの大振幅振動台「E-Spider」は、超高層ビルの長周期地震動を再現可能だ。
次は風洞実験棟。直径4mの送風機で発生させた風をビルや街を再現した小型模型に当て、風の影響を調べるのが風洞実験だ。建物に作用する荷重や建物周辺の風速変化を計測することができる。特に最近は、大規模都市開発の環境アセスメントなどで高い精度が求められているのだという。小型の風洞実験装置で平均風速20m/sを体感した生徒たちは、声にならない小さな叫びを上げるのがやっとだった。
日本での建設材料や施工方法の歴史的変遷を紹介する建設技術歴史展示室では、日本独自のタイル張り、継手や仕口などの伝統的な木造技術を学んだ。
生徒からは「高層ビルの風対策としておもりや水槽を設置したり、チタンをはじめとする材料にも着目している点がすごい」「講義と見学で得た知識を将来就きたい研究職で生かせると感じた」などの感想が聞かれた。■
(日経サイエンス2022年12月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社