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シダ類の進化の謎〜日経サイエンス2022年12月号より

大きなゲノムを持っている理由は?

シダ類は奇妙な植物だ。森に生えている他の植物と同様に緑色の葉が茂っているが,繁殖の仕方はむしろキノコのようで,胞子を煙のように放出する。大半の種子植物と違って,多くの種は受精のためのパートナーを必要としない。近年の研究により,シダ類と種子植物が分岐したのは約4億年前と推定されている。

そしてシダ類のゲノムは不可解に大きい。だが,そのユニークな生理と種子植物との関係にもかかわらず,シダ類の奇妙なゲノムはほとんど調べられていなかった。つい最近まで,全ゲノム配列が解読されたシダ類はゲノムサイズの比較的小さな2種だけで,種子植物では200種以上が解読されているのとは対照的だ。最近,木生シダの全ゲノム配列が初めて解読され(ヒカゲヘゴという種のゲノム),これらの特異な植物が大量の遺伝物質をどのように蓄積したかが見えてきた。

1億年以上前に全ゲノム重複

「種子や花の起源を理解したいなら,シダ類が非常に重要な比較対象になる」とコーネル大学ボイス・トンプソン研究所のシダ類生物学者で,Nature Plants誌に発表された今回の研究論文を共著したリー(Fay-Wei Li)はいう。「だが私が本当に知りたいのは,シダ類のゲノムがなぜこんなにバカでかいのかだ」。

リーのチームはヒカゲヘゴ(下の写真,ヤシの木に似た形をしている)が60億個を超えるDNA塩基対を持っていることを発見した。これは種子植物のゲノムの平均よりも10億個多い(ちなみにヒトゲノムは約30億塩基対)。今回の新たな解析から,このシダの祖先が1億年以上前に全ゲノム重複を起こしたことが示唆された。ゲノム重複は植物ではしばしば起こる複製エラーだとリーはいう。

だが,木生シダがこのように大量の遺伝物質を保持してきた理由は不明だ。種子植物の大半は,ゲノム重複を起こしても元のスリムなゲノムに戻る。ヒカゲヘゴは染色体をため込んでいるのではないかとリーはいう。「私はこれを“近藤麻理恵仮説”と呼んでいる。この片づけコンサルタントによれば,捨てずに残すものを,ときめくかどうかを基準に決めるのがよい。染色体はシダ類にとってときめきで,種子植物にとってはときめかない対象なのだろう」。(続く)

続きは現在発売中の2022年12月号誌面でどうぞ。

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