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寄生虫の知られざる生態〜日経サイエンス2022年12月号より

動物の糞が含むDNA断片を調べると…

ヤギとカバがサバンナの水飲み場で分け合うのは飲み水だけではないかもしれない。水や食物を介して広がる腸内寄生虫もシェアされる可能性がある。これらの寄生虫は発育不全から飢餓,死亡まで様々なダメージを及ぼしかねない。野生の草食動物と家畜が接触する機会が増えているケニア中央部などでの寄生虫の拡散を予測するため,どの寄生虫がどの動物に寄生しているのか,そしてそれはなぜなのかを解明する研究が進んでいる。

Proceedings of the Royal Society B誌に報告された最近の研究は,腸内寄生虫が定着先の場所に関する好みがうるさいことを示している。近縁の寄生虫は消化管が似た動物に集まる傾向にあるのだ。この研究チームは草食動物17種の糞のサンプル550個を化学的に調べ,寄生虫の遺伝子断片を特定して,その動物にすみついていたと考えられる寄生虫の種をリストアップした。「DNAバーコード」と呼ばれる方法だ。

胃袋の数によって寄生虫に違い
こうして見つけた80種ほどの寄生虫の寄生先が,消化器系のタイプ別に2つに分かれているらしいことがわかった。袋が1つの単純な胃を好む寄生虫と,ウシやラクダにあるような複数の胃袋を好むものに分かれた。ゾウとロバのように胃袋が1つである以外には共通点に乏しい遠縁の種でも,遺伝的に似た寄生虫が見つかった。これらの動物が寄生虫をうつし合っている可能性をうかがわせる。

どの寄生虫がどの動物に寄生しているかがわかれば,農家や野生動物保護の専門家が寄生虫の感染拡大を抑えるのに役立つ。ケニアの農家の多くは近年,乾期が長期化しているのに対応して,家畜をウシからラクダなど干ばつに強い動物に変えている。ラクダはサバンナの動物とは遺伝的に大きく異なるものの,多くの野生動物と家畜,特にウシと同じ寄生虫を持っているようだ。そして,調べたラクダの90%が寄生虫を抱えていた。複数の胃袋を持つ他の動物では平均65%だったのに比べ感染率が高い。

「ラクダの感染率がこうも高く,多くの野生動物と同じ寄生虫を抱えているとは,予想外だった」と,この研究論文の主執筆者となったカリフォルニア大学サンタバーバラ校の疾病生態学者ティットコム(Georgia Titcomb)はいう。この論文の結論に基づき,地元の野生動物管理者は数が減っているキリンなどの動物を守るため,今回の調査対象地域のラクダについて寄生虫を駆除することを決めた。(続く)

続きは現在発売中の2022年12月号誌面でどうぞ。

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