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カキを導くエビの音〜日経サイエンス2022年11月号より

テッポウエビが発する音によってカキの幼生を新たな岩礁に誘導できる

カキ礁はかつて多くの海底を一面に覆って海水を濾過し,海岸線を安定に保ち,膨大な生物のすみかとなっていた。だが過去200年間に,底引き網漁船が世界のカキ礁の大半を破壊してしまった。そんななか,豪アデレード大学の研究チームが最近のJournal of Applied Ecology誌で,カキ礁の再建に役立ちそうな興味深い事実を明らかにしている。カキの幼生がエビが発する音を追いかけているのだ。

テッポウエビの発砲音
オーストラリアヒラガキの小さな幼生は海中を漂い,髪の毛のような繊毛を使って泳ぎながら,その後の一生を固着して過ごす硬い表面を探す。定着先としては他のカキの殻でできた大きなカキ礁が理想だが,近くにそれがない場合,幼生は砂地の海底の上をあてどなく漂い続ける。海底に孤立するはぐれ岩を見つけてすみ着けるのは,ごく一握りの幸運な幼生だけ。保全科学者は幼生が定着できる巨大な石灰岩を海に投入して新たなカキ礁を生み出そうとしてきたが,ほとんどの幼生は海で迷子になったままだ。

一方,他の海洋生物が健全な岩礁生態系から生じる音に向かって移動することが以前の研究で示されていた。岩礁の生物が減っているうえ船のエンジン音が支配的になったため,そうした音はまれになっている。カキは耳はないものの音の振動を感知しているので,研究チームはカキの幼生が独自の音波標識を追跡しているのではないかと考えた。岩礁にいるテッポウエビが出す「カチッ」という音だ。

テッポウエビはハサミをかち合わせて音を出すことで知られ,この際に生じる衝撃波で小さな獲物を気絶させる。生じる音の強さは210デシベルに及び,ロックコンサート並みの大音響だ。研究チームは実験室と海中の実験でテッポウエビの音の録音を再生し,カキの幼生がこれに向かって移動して近くの硬い表面に定着することを見いだした。録音を流さなかった場合や,船の雑音でかき消された場合には,幼生はそれらの定着先を見つけるのが難しかった。

カキの幼生を岩礁におびき寄せる方法は,ダイバーの手で幼生を岩礁に移植するといった費用と手間のかかる方法の代わりになるだろうと研究チームはいう。 (続く)



続きは現在発売中の2022年11月号誌面でどうぞ。

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