青山学院大、炭素材料の技術紹介 〜湘南生、化学の基礎学ぶ
神奈川県立湘南高等学校(藤沢市)で6月、炭素材料など化学の基礎を学ぶ特別講義が開かれた。青山学院大学の黄晋二理工学部教授(学長補佐)が1年生に、炭素原子の結合や性質が異なる「同素体」を説明。自らの研究テーマの「透明アンテナ」も紹介した。
炭素材料はスーパーマテリアル
黄氏は炭素が宇宙で水素、ヘリウム、酸素に次ぐ4番目に多い元素であることなどを紹介。「炭素が物質をつくる上で電子が重要な役割を果たす」と指摘した。その1つがダイヤモンドの構造だ。電子の働きにより正四面体構造で原子が結びつき、堅くて強いだけでなく、自由な電子がないため電気を通さない絶縁性が特色だと解説した。
一方、正三角形構造で原子が結びつき、膜状になったのが「グラフェン」。原子間の結合エネルギーがダイヤモンドより強く「面内の炭素間結合が実は世界で一番強い。電気も流せる」という、ダイヤモンドと異なる特性を持つ。同じ炭素原子から性質が異なる同素体をつくれることを紹介した。
グラフェンは、航空・宇宙分野などへの応用が期待されるカーボンナノチューブに使われている。一方で、太古の壁画にグラフェンがもとになっている黒鉛が使われるなど、人類になじみの深いもの。古くて新しい身近な材料であることを強調した。
また、黄氏はグラフェンの製造、応用技術の自らの研究も説明。1つは、グラフェンをメタンガスと水素、銅箔を使って製造する「化学気相成長法」だ。銅箔上にできたグラフェンの膜を、アクリル樹脂などでガラス基板に写し取ることで「大面積で高品質なグラフェンを活用することができる」という。
もう1つがガラスなどにも設置可能な透明アンテナだ。高速通信規格「5G」は周波帯が高くなり通信距離が短くなるため、アンテナが急増する見通しだ。無色に近いグラフェンを材料にすれば、建物の窓やガラスなどに設置しても透明性を損なわずに済む。様々な場所で外観を変えずにアンテナを設置できるようになるという。
黄氏は「透明度が90%の、3層に重ねたグラフェンを用いて、アンテナ放射効率(電波の送受信効率の指標の1つ)を不透明な金属アンテナの約半分にすることに成功している。実用化の可能性を示した」と成果を解説した。
研究者のススメ
黄氏は講義の後半で、博士をはじめとした研究者の仕事についても説明した。博士号は人類の知のデータベースに研究成果で貢献した者への国際的な称号で、欧米では尊敬の対象と指摘。日本でも博士号取得を支援する企業が出ていることを挙げ「これからどんどん博士が社会で必要となる」と述べた。
「今回の講義を実現するために尽力して下さった木下啓二教諭(湘南高校)は博士号を持っている貴重な先生」と紹介すると、会場からはどよめきと拍手がわき上がった。
黄氏は「研究をはじめ、皆さんも壁にぶち当たったその瞬間がチャンス。越えていけば皆さんを新しいステージに上げる」と締めくくった。
生徒からは「炭素材料の研究を始めたきっかけは」との質問があり、黄氏は「半導体向けの材料の結晶成長の研究をしていて、究極の結晶成長はダイヤモンドと気づき、炭素に関心が移った」と答えた。
講義後、「グラフェンの話を聞いて、カーボンナノチューブの研究がしてみたくなった」「今まで修士号や博士号など具体的に考えたことはなかったが、最先端の技術などが使えて、自分の知りたいことを研究できるのは面白いと思った」などの感想が聞かれた。
(日経サイエンス2022年10月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時
サイエンス講義についてのお問い合わせは,[email protected] までどうぞ。
協力:日経サイエンス 日本経済新聞社