ニキビの原因〜日経サイエンス2022年10月号より
アクネ菌の影響で線維芽細胞が脂肪細胞に転換しているようだ
ニキビの原因が皮脂であるなら,よく洗顔しても防げないのはなぜだろう? 最近の研究がその疑問にひとつの答えを与えた。そしておそらく,新たな予防法も。
ニキビは小さな個別の細菌感染を含んでいる。最もよく見られるのはアクネ菌(Cutibacterium acnes)で,皮膚細胞にすみついていて普段は無害なのだが,皮脂が増えて細菌の食物が豊富になると増殖に歯止めが利かなくなる。私たちはニキビを赤く腫れた膿疱と考えているが,これは免疫系と急増する細菌の戦いなのだと,今回の研究を率いたカリフォルニア大学サンディエゴ校の皮膚科医ガロ(Richard Gallo)はいう。「ほとんどの場合,不潔なわけでも洗顔が不十分なわけでもない」とガロは説明する。「ニキビは,そこに存在してむしろ当然と思われる細菌を人体の免疫系がどう扱うかという対応の問題だ」。
芝生を荒らす暴れん坊
免疫系と細菌を対戦するサッカーチームとすると,ニキビは試合終了後の傷んだ芝生だ。今回の研究は免疫系チームの選手で芝生を特にひどく荒らすメンバーを特定した。これまで知られていなかったものだ。ガロらは「線維芽細胞」という構造細胞(一般に免疫細胞とは考えられていない)が顔面上の対決に加わっていることを示し,Science Translational Medicine誌に報告した。
マウスと人間の皮膚試料で調べたところ,アクネ菌が線維芽細胞を「脂肪細胞」に転換し,この脂肪細胞が抗菌物質を分泌するとともに,炎症を引き起こすタンパク質を作り出していることがわかった。また,強力なニキビ治療薬としてよく使われているレチノイドが効果を発揮するのは,線維芽細胞の転換を防いで炎症性タンパク質の放出を阻害しているのが一因であることを発見した。
マイアミ大学医学部の臨床皮膚科医で今回の研究には加わっていないケリ(Jonette Keri)は,この発見はニキビに関する「エキサイティング」な新しい考え方だという。レチノイドは有害な副作用を伴う場合があるため,線維芽細胞の転換を止めることに的を絞った方法を追求すれば素晴らしい治療につながるだろうという。■
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