ハイパースペクトル画像に期待〜日経サイエンス2022年10月号より
地表の物質の種類を見分ける超精密な衛星画像
土壌の状態から地表に繁茂する植物,都市スプロールの構造まで,地球表面の詳細を解析することが,間もなく新たな衛星によって可能になりそうだ。この春,スペースXのファルコン9ロケットがフロリダから打ち上げられ,総費用3億ユーロに上るドイツのEnMAP(環境マッピングおよび分析プログラム)衛星を軌道に投入した。世界のリモートセンシング研究者は今秋以降,地球を隈なく周回するこの宇宙船が特定の標的に照準を合わせるよう申請できる。
「ものすごくワクワクしている」とEnMAPの主任研究者で,ドイツ地球科学研究センター(ポツダム)およびハノーバー大学に所属する地球科学者のシャブリヤ(Sabine Chabrillat)はいう。「高品質のデータが得られるのは間違いない」。
広範囲のスペクトルをより正確に記録
EnMAPはいわゆる「ハイパースペクトル」ミッションの次世代版のひとつで,従来のリモートセンシングに残っている大きな空隙を埋めると期待されている。ハイパースペクトルセンサーは,通常のカメラやマルチスペクトル撮影装置よりもはるかに広い範囲の電磁スペクトルをより正確に記録し,様々な物質の特徴的な反射波長をとらえる。従来の衛星も宇宙から都市スプロール現象を追跡しているが,ハイパースペクトル分光解析なら,例えば都市スプロールのどの程度が舗装道路ではなく住宅によるものかがわかるだろう。
さらに有害藻類ブルーム(アオコ)についても,原因となっている植物プランクトンの種まで特定できるようになる。「世界の生物多様性に対する理解が飛躍的に向上するだろう」とカリフォルニア大学デービス校の宇宙技術・リモートセンシングセンター所長ウスティン(Susan Ustin,今回のミッションには関与していない)はいう。
シャブリヤは工業型農業や気候変動によってますます大きなダメージを被っている土壌の解析を心待ちにしている。土は作物を育て,大気からの炭素を蓄えているが,その健全性を地球規模で監視するのはなかなか難しい。「土壌の現状は実際のところ十分に評価できていない」とウスティンはいう。「劣化しているのか,どの程度劣化しているのか,劣化が最も進んでいるのはどこなのか?」 EnMAPの観測結果を一目見れば,これらの疑問に答えられるだろう。(続く)
続きは現在発売中の2022年10月号誌面でどうぞ。