マーカーペンで検体保存〜日経サイエンス2022年10月号より
替え芯を使う秀逸なアイデア
綿棒とバイアル(小さな薬瓶)は血液や唾液などの液体サンプルを臨床検査ラボに運ぶのに極めて重要な役割を果たしている。だが綿棒上の検体はすぐに乾いてしまうし,バイアルの試料は分析前に移し替えの手間がかかる場合がある。最近,マーカーペンの繊維質のペン先(もちろんインクがついていないもの)が効果的で長持ちするサンプル採取器となることが発見された。
モスクワ物理工科大学の物理学者ポポフ(Igor Popov)のチームは,市販のマーカーペンに使われる替え芯を買ってきた。マーカーペンの芯は乾くことなくインクを長期間保持するよう設計されている。この多孔質のペン先を鎮痛薬のアセトアミノフェンを加えた血液や唾液に浸して試したところ,室温で7日間保存した後でも,鎮痛薬の存在と濃度をうまく特定できた。即席のサンプル採取器としては上々で,すぐには分解しない医薬品やホルモンの検査に最適だろうとポポフはいう。「大都市から遠く離れた施設など,条件のよくない場所での医学検査に活用できそうだ」と付け加える。このツールの使用法はActa Astronautica誌とMolecules誌に詳しく説明されている。
別の使い方として考えられるのが宇宙用途だ。現場の宇宙飛行士を調べるための検体採取器は小型・軽量でなくてはならず,徹底した訓練なしに容易に使える必要があるとポポフはいう。また地球に持ち帰るまで簡単に保存できることも必要だ。現在の宇宙ステーションの飛行士はバイアルを使っており,これを冷凍保存するために貴重なスペースを食っている。
マーカーペンの芯を使うアイデアは「検体採取の分野で過去に見たことがない新しい応用だ」とサウスカロライナ大学の化学者リチャードソン(Susan Richardson)は評する。分析対象の化合物が唾液などの体液中でどのくらいの期間存続するかを今後の研究で調べるべきだと付け加える。化合物を分解する微生物が体液に含まれている可能性があるからだ。
研究チームは今後,様々なマーカーペンを比較し,サンプルの保管に寄与する特性を見極める予定だ。あらゆる組成と形状,大きさのペン先をテストする。■
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