中高生が学ぶ サイエンス講義

花王、SDGs時代の科学を解説 〜豊島岡女子学園生、洗剤の界面活性を体験

洗剤の主要成分、界面活性剤のSDGs(持続可能な開発目標)時代を踏まえた役割を学ぶ特別講義が2022年6月、豊島岡女子学園中学校・高等学校(東京都豊島区)で開かれた。花王の研究員が、活性剤の働きで油汚れを落とす仕組みを実験を交えて説明。SDGsを考慮した新しい素材を開発し、商品にすることの意義を語った。

「界面張力」低下を実感
講師の坂井隆也研究主幹(工学博士)は界面活性剤の開発、機能解析に従事。洗浄剤や液体せっけんなど同社の主力製品開発に関わってきた。

坂井氏はまず、界面活性剤が「界面張力」を下げ、油汚れを落とす仕組みを説明した。混じりにくい物質は、お互いが接する「界面」に高い張力が発生している。油とよくなじむ「疎水基」と、水とよくなじむ「親水基」からなる界面活性剤の構造を、スライドで図解しながら説明。「界面活性剤は水と油の間に入って界面張力を下げ、混ざりやすくする」と解説。

講義の理解を深めるのに、まず水中の油滴を細かくする実験をした。水だけが入ったシャーレと、水に洗剤を入れたシャーレを用意し、ともにオレンジ色の油を1滴静かに表面にのせる。水だけの方は油が浮いたままになるが、洗剤を入れた方は油が激しく動き回り、小さい油に分解される。界面活性剤が水と油両方の界面張力を下げて混ざりやすくし、油の固まりを小さくしている。

水と油を混ぜる実験では、水だけ、水に少量の洗剤を加えたもの、水に適量の洗剤を加えたものの3種類のガラス管に同じ量の紫色の油を入れ15秒間振る。水だけのガラス管では油が混ざらないが、洗剤「少量」は油が混ざって薄い紫になった後すぐに分離し、「適量」は紫がかった乳白色になって泡立つ。

坂井氏は「少量」「適量」2つのガラス管の実験結果の違いについて、「適量」だと界面活性剤の分子が大きな油を包み込んで、水の中により安定的に留めると説明。水と油の中に空気も混ざり、泡が立つことも付け加え「500万分の1cmの分子を水に溶かすだけでこんなことができる」と結論を述べた。生徒たちは実験で界面活性剤が汚れを落とす様子を直接観察して歓声を上げていた。

科学の視点からみたSDGsの捉え方
SDGs時代の洗剤づくりについても講義した。洗剤は1970年代の公害問題を契機に石油由来から植物由来に原料を変え環境問題にいち早く対応してきた。ただ、主原料のパーム核油は栽培地拡大に伴う森林破壊や労働問題など様々な課題がSDGsの観点から問題になり生産を増やしにくい。世界の人口と国内総生産(GDP)の大幅な拡大で需要は増え「洗剤が足りなくなる時代が来る予測もある」と指摘した。

花王が注目したのが、パーム油や大豆油などの植物油脂から食用油を獲ったあとに残る固体油脂で、水に溶けにくく量が余っていた工業用油脂だ。これまでできなかった新しい分子構造の界面活性剤を作りだし、主力商品として販売にこぎつけた。坂井氏は「使えていない原料を有効利用し供給安定性を確保できる。世界で唯一のサステナブルな界面活性剤だ」と強調した。

講義終了後、「汚れが落ちていく様子を視覚的に勉強できた」、「花王が界面活性剤でSDGsに貢献していることを知った」などの声が寄せられた。■


(日経サイエンス2022年9月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時

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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社