SCOPE & ADVANCE

スーパーゲルを簡単に製造〜日経サイエンス2022年9月号より

丈夫で導電性もある「イオノゲル」を容易に作り出す新手法

柔軟で弾力性のあるハイドロゲル材料は,ソフトコンタクトレンズからフルーツゼリーまで実に多くの分野に使われているが,構造は共通している。高分子の鎖が絡み合った網目構造が水のなかに浸かっているのだ。近年,このハイドロゲルによく似た素材が開発された。ハイドロゲルよりも丈夫で,長寿命の電池などさらに多くの用途に利用できるだろう。その名を「イオノゲル」という。

イオノゲルのポリマー鎖は水の代わりに「イオン液体」に浸されている。この液体は正と負に帯電したイオンからできている。その点では食塩と同様の組成だが,イオン液体は食塩と違って室温では結晶性の固体にはならない。それでもイオン間の結びつきが強いので,水と違って蒸発しない。そして,イオンがポリマーに強く付着するおかげもあって,イオン液体に浸されたポリマーはハイドロゲルの場合よりも丈夫になりうる。


イオノゲルは3D プリントによる造形も可能だろう。

ノースカロライナ州立大学の化学工学者ディッキー(Michael Dickey)らは,機械特性が「このクラスで最高」というイオノゲルを作り出す新手法を考案した。できたイオノゲルは柔軟で伸縮性に富んでいながら,軟骨と天然ゴムのどちらよりも壊れにくい(あるタイプのイオノゲルは最大7倍の長さまで伸ばすことが可能で,これはゴムバンドの2倍を超えるとディッキーはいう)。また,他のイオノゲルと同じく電気を通し,温度が変化しても安定な状態を保つ。熱を加えると,切れ目や裂け目を自己修復することができる。この新素材は最近のNature Materials誌に報告された。

モノマーをイオン液体に混ぜて光で重合
「これらの透明なイオノゲルは注目すべき強靭な力学特性を備えており,簡単に作れる点が特徴だ」と,今回の研究論文を査読したマサチューセッツ工科大学の機械工学者チャオ(Xuanhe Zhao)はいう。これまでに独自のイオノゲルを開発した研究例は他にもあるが,それらは製造に多段階の工程を要するか複雑な化学反応を必要とするものが多かった。これに対しディッキーらは,イオン液体と2種類のポリマーの基質(モノマー)を単純に混ぜ合わせた後,液体に光を当ててモノマーの重合反応を引き起こし,高分子鎖にした。「この場合,1+1が100になる」とディッキーはいう。「それ自体はありふれた2つの素材なのだが,イオン液体という新たな環境に入れると著しく丈夫なものが得られる」。(続く)

続きは現在発売中の2022年9月号誌面でどうぞ。

 

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