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外国語は子供のように学べ〜日経サイエンス2022年9月号より

理詰めで考えるのは無益らしい

 

子供はたいてい大人よりも容易に新たな言語を習得するが,その理由ははっきりしていない。ある仮説は,言語の把握には微妙なパターンを無意識に吸収する必要があり,大人は意識的に推論する能力が優れているために,これが妨げになっているというものだ。最近の研究は実際,この大人の賢さが裏目に出ていることを示唆している。

 

Journal of Experimental Psychology: General誌に掲載されたある研究では,ベルギー人の成人のグループに,架空の単語4つを連ねたでっち上げの言葉(「kieng nief siet hiem」など)を見せ,同時にその音読を聞かせた。それぞれの単語には隠れた規則性があり,ある特定の母音を含んでいる場合,語頭または語尾にそれに対応する特定の子音のひとつが必ず現れるようになっている。次に,見せられた4単語を素早く声に出して読むよう被験者に求めた。ミスなく読み上げる能力は,被験者が子音と母音のパターンをどれほどうまく体得したかを示している。

 

この言語実験に先立ち,被験者に別のテストを課しておいた。文字と数字に反応してキーを押すというもので,一部の被験者には,より素早い反応が必要で精神的に疲れるテストを課した。この難しいバージョンに取り組んだ被験者はより大きな認知的疲労を訴えたが,続いて行われた言語課題でより良好な成績を残した。研究チームは,頭が疲れた被験者は単語に隠された規則を意識的に解析することが少なく,子供のように自由でとらわれない学習をしたのだろうと考えた。

 

音のパターンを無意識に把握

同チームはこれに関連して別の実験を行い,結果を米国科学アカデミー紀要に発表した。まず,英語を話す成人に,3音節の“単語”にまとめられた意味のない発話の例をいくつも聞いてもらう。その後,3音節の単語2つを対にして聞かせる。片方の単語は事前に聞かせた例に含まれていたもので,他方は新たな組み合わせの3音節だ。被験者はどちらの単語に聞き覚えがあるかを判断し,その確信度を自己申告した。

 

このテストに先立ち,被験者グループのひとつでは,一部の被験者に例の実験と同じ頭が疲れる課題を実行させた。また別のグループでは,一部の被験者に磁気パルスを印加し,実行調節機能と関連づけられている脳領域の活動を乱した。この結果,どちらのグループでもこうした介入を受けていた被験者のほうが,音節聞き覚えテストのうちで回答に自信はないと自己申告した部分の正答率が高くなった。発話を無意識に解析していたことを示している(これに対し自信ありとした回答は以前に聞いた例を覚えていて,それを意識的に想起したことを示唆している)。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年9月号誌面でどうぞ。

 

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