空飛ぶカエル〜日経サイエンス2022年9月号より
「パラシュートフロッグ」の滑空が遺伝子解析と実験で明らかに
東アジアのジャングルにはとんでもなく高いジャンプをするカエルがいる。「パラシュートフロッグ」と呼ばれるこの命知らずのカエルは,木のてっぺんからジャンプしてジャングルの林冠の間を滑空し,捕食者から逃げる。1回の滑空で15m以上飛ぶものもいる。
このカエルは鳥やコウモリのような翼は持っていないが,足指の間に幅の広い水かきがあり,これを翼のように使って下降のスピードを落とす。また,体の割に足が大きく,四肢沿いにだぶついた皮膚のフラップがあり,足の裏はねばねばしていて物体にぴったり粘着する。これらを使って安全に着陸している。
テキサス大学オースティン校の生物学者ヒリス(David Hillis)と中国成都生物研究所の共同研究チームは,中国南部の雨林で数匹のブラックウェブドアマガエル(黄緑色をしたパラシュートフロッグの一種で,黒と黄色の水かきを持つ)を採集した。この印象的な適応の背後にある遺伝的要因を解明するのが目的だ。
研究チームはこのアマガエルのゲノム配列を調べ,滑空できない近縁種のカエルのゲノムと比較して変異のある455の遺伝子を見つけ,米国科学アカデミー紀要に報告した。「私たちが変異を特定した遺伝子の多くは,水かきや足,四肢の発達の様々な面と関連している」とヒリスはいう。「空飛ぶカエルの滑空行動に向けた強力な形態的適応とすべて整合する」。長い脚と木登りに適した粘着性の足の裏を生み出す複数の遺伝子も見つかった。さらに,それぞれの種のオタマジャクシの足の発生を追跡することで,大きな水かきを生じる原因と考えられる遺伝子ネットワークを突き止めた。
これらの違いが実際に機能する様子を観察するため,制御条件下で飛行試験を行った。それぞれの種のカエルを止まり木の上に置き,ジャンプとその後の滑空をすべて記録した。カエルが空中で体勢を崩した場合に備え,軟らかなスポンジを下に置いた。これは滑空しないカエルにとって重要だった。スポンジへ真っ逆さまに落下したからだ。だがパラシュートフロッグは水かきがしっかりついた足を広げ,水平に滑空してから着地した。(続く)
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