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“DeSci”は科学を変えるか?〜日経サイエンス2022年9月号より

研究者と投資家が直につながる独立性が売りだが,課題もまだ多い

 

一部の巨大なIT企業に依存しない“分散型”のインターネットを目指す「Web3」の概念を科学に生かす取り組みが欧米で始まった。暗号資産にも使われるブロックチェーン(分散型台帳)技術を駆使し,研究に必要な資金の調達や情報共有などを進める。科学が抱える現状を打破できるのだろうか。

 

「科学研究に必要な資金の流れを多様化して民主化するとともに,研究者の評価システムを改善する。ここに集まったみなさんや私は改革を目指す人たちだと思う」。5月23〜24日,独ベルリンでWeb3の新たな潮流とされる「DeSci(分散型科学)」をテーマにした国際シンポジウムが開かれた。神経科学者のハンバーグ氏(Sarah Hamburg)は会議で参加者にこう語りかけた。同氏は世界的な取り組みの現状や課題を説明したうえで「科学者コミュニティーに力を与え,イノベーションを促すWeb3の可能性に期待している」と強調した。

 

DeSciは科学者やITエンジニアがブロックチェーン上に「分散型自律組織(DAO;Decentralized Autonomous Organization)」を作り,研究助成機関や学術出版社としての役目を担う。トークンと呼ばれる暗号資産を発行して投資家から資金を募り,有望なテーマを提示した研究者に資金を提供する。助成した研究から得られた成果やデータ,特許はDAOが管理する。特許内容や研究ノートなどはデジタル化した後,コピーや偽造が不可能な非代替性トークン(NFT)に組み込み,企業などに販売して資金を得る。得られた利益は貢献度に応じて投資家やメンバー,研究者に配分する。論文の査読を担当した研究者にも,トークンの形で謝礼が支払われる。こうした運営や管理はすべてブロックチェーン上で実行され,プログラムされた通りに運営される。

 


DeSci の仕組み。資金は暗号資産で,特許やデータはNFT 化してやりとりする。Image:日経サイエンス

 

DeSciは科学者やITエンジニアによる「脱中央集権化」の取り組みといえる。現在のインターネットは米国の巨大テック企業が支配する。Web3はブロックチェーン技術によって寡占状態から脱却し,利用者の手にネットを取り戻すのが狙いだ。プロジェクトでは,どのテーマに助成するのかをDAOに参加するメンバーの投票で決めている。一般人のメンバーに研究内容をわかりやすく説明する会を設け,投資すべきかどうかを判断できるよう配慮している。

 

米国のベンチャーキャピタル最大手のアンドリーセン・ホロウィッツが2月,DeSciを新たな潮流として紹介したことで,投資家からも注目を集めるようになった。現在までに,バイオテクノロジーを中心に40を超すDeSciプロジェクトが設立されている。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年9月号誌面でどうぞ。

 

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