SCOPE & ADVANCE

伝書鳩の記憶〜日経サイエンス2022年8月号より

学んだルートを数年後でも覚えている

 

伝書鳩は正確な体内コンパスと地上の目印の記憶を併用して自分の鳩舎への帰り道をたどる。4年前にたどった経路も記憶していることが最近の研究で示された。

 

人間以外の動物で記憶の保持を確かめるのは難しい。「動物が情報を記憶してからそれを引き出す必要に迫られるまで数年の間隔をあけて調べた研究はあまり例がない」と英オックスフォード大学の動物学者ビロ(Dora Biro)はいう。ビロらはProceedings of the Royal Society B誌に報告した最近の研究で,8.6km離れた農場から自分の鳩舎へ戻る経路を確立した伝書鳩がその3~4年後にどんな経路をたどるかを調べて比較した。2016年に行った実験のデータをもとにした。それらは伝書鳩を社会的に異なる条件で飛ばせて経路を学ばせた実験で,1羽単独で,あるいは経路をすでに知っている仲間やまだ知らない仲間と一緒に飛ばせて調べたものだ。

 

昨日のことのように

今回はそれらのハトの背にGPS装置をつけて飛ばす実験を2019年または2020年に行い,その経路を2016年の経路と比較した。2016年実験の放鳩地点を再訪した経験のあるハトは実験から除き,どのハトもこの区間を飛ぶのはこの実験で2度目となるようにした。

 

 
一部のハトは経路沿いの目印をいくつか見逃したものの,多くは2016年の経路と「驚くほど似た」経路を飛んだと,論文を共著したオックスフォード大学の動物学者コレット(Julien Collet)はいう。「まるで前回飛んだのが4年前ではなく前日かと思わせるほどだった」。

 

また,最初の2016年の飛行が単独だったか仲間と一緒だったかによらず同様に経路をよく覚えていること,以前の実験に加わらず今回が初飛行となったハトよりもはるかにうまく飛んだことが明らかになった。

この結果は驚くにはあたらないと,動物のナビゲーションを調べているボーリング・グリーン州立大学(オハイオ州)のビングマン(Vernon Bingman,今回の研究には加わっていない)はいう。だが,伝書鳩の優れた記憶力を改めて確認する新たな証拠を提供しているという。「人間が自らの認知力について抱いている自己中心的な意識と動物の実際の能力とのギャップが少し縮まった」。■

 

ほかにも話題満載! 現在発売中の2022年8月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む