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細菌の培養は台所スポンジで〜日経サイエンス2022年8月号より

様々なタイプの細菌にとって理想的なすみかとなりうる

 

台所の食器洗いスポンジは微生物でいっぱいだ。だが,食べかすに繰り返し触れることだけが原因ではない。スポンジの独特な構造も一役買っている。Nature Chemical Biology誌に掲載された研究によると,この構造をヒントに,研究用に細菌を育てる新たな方法が考えられる。

 

微生物学者が抱えている大きな問題に,実験室では容易に増殖しない細菌種をいかに培養するかがある。微生物のなかには信じ難いほど好みがうるさく,どんな培養条件を必要としているのか想像がつかないものもある。「動物園でパンダの繁殖を試みるのに通じる難しさだ」とウィスコンシン大学マディソン校の細菌学者マクマホン(Trina McMahon,今回の新しい研究には加わっていない)はいう。

 

Sponge for Dish Washing isolated above white background

 
サイズの異なる小部屋が混在

スポンジがひとつの答えを提供してくれる可能性がある。細菌の培養はふつうシャーレで行われている。滑らかで仕切りのない平面の環境だ。これに対しスポンジは中空の小さなポケットがつながっており,重要なことに,それらの穴のサイズが均一ではない。「小さな部屋と大きな部屋が混在している」と今回の研究論文の上級著者となったデューク大学の微生物学者ユー(Lingchong You)はいう。細菌のタイプはいろいろで,生存を他の多くの個体に依存していて大集団を形成するための空間を必要とするものがある一方,近くの細菌に殺されないよう比較的孤立した状態を要するものもある。大小の部屋が混在するスポンジは理想的な環境となりうる。

 

スポンジが細菌培養場として優れている可能性は直観的に理解できるものの,「それを実験的に確かめるのは困難なプロセスだ」とユーはいう。研究チームはまず,スポンジに似た環境をコンピューター上に表現するモデルを作り,穴のサイズを様々に変えることによって多くの異なる細菌株が繁殖できるようになることを見いだした。次にそれらの結果をセルローススポンジを使って再現した。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年8月号誌面でどうぞ。

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