ETに長距離電話〜日経サイエンス2022年8月号より
新たな符号化メッセージが作成された
もし地球外知的生命体と遭遇したとして,重要な最初の問いかけは「お互いどうすればコミュニケーションできるでしょうね?」になるだろう。米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のチアン(Jonathan H. Jiang)が率いる国際研究チームは最近,地球外生命体に連絡を取ることを狙った新たな信書の詳細をGalaxies誌に公表した。13の部分からなるこの「ビーコン・イン・ザ・ギャラクシー」は1974年の「アレシボ・メッセージ」のアップデート版だ(アレシボ・メッセージは地球外知的生命体に理解可能と思われる情報を送った人類初の試み)。
チアンらはこのメッセージを,天の川銀河の中心近くにあって,有望な惑星を従えていそうな恒星が密集したある領域に向けて送ることを提案している。また,今回のメッセージは,これを受信したどんなエイリアンでも私たち人類の居場所を特定できるよう新たに設計された返信先アドレスを含んでおり,受信者は星間メッセージの交換を始めることができる(と研究チームは期待している)。「私たち人類とその社会に関する最大量の情報を最小量のメッセージで届けることを目指した」とチアンはいう。「デジタル技術が向上したおかげで,1974年当時よりもずっとうまくできる」
ビットマップ
これまで人類が宇宙生命に向けて送信したメッセージはほぼすべて,意思疎通の共通基盤を基礎的な科学と数学を使って確立しようと試みている。電波信号を受信できるほど進化したETなら,人類と同様,そうした基礎科学・数学を十分に知っていると考えられるからだ。ただし,それらの概念をどう表すか,符号化の方法は選択しなければならない。多くの試みは恣意的な要素を含む人間の言語や記数法ではなく,ピクセルからなる画像を2進コードを用いて作成する「ビットマップ」という手法を選択している。今回の「ビーコン・イン・ザ・ギャラクシー」もこの手法を採用した。
ビットマップを選んだのは理にかなっている。オンとオフ,有と無という2進法の本質は,知的な生物であればみな認識できると思われる。だが,この方策に欠点がないわけではない。地球外知的生命体探査(SETI)の先駆者ドレイク(Frank Drake)がアレシボ・メッセージを作ったとき,試作版をノーベル賞受賞者を含む数人の仲間にメールした。この2進コードのメッセージの内容を理解した人は皆無で,ビットマップであることに気づいたのは1人だけだった。
(続く)
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