SCOPE & ADVANCE

DNAアンテナ〜日経サイエンス2022年7月号より

分子標的薬の創薬を加速しそう

 

新薬の開発は当たり外れを伴うが,DNAに基づく小さなセンサーによって効率化できる可能性がある。このセンサーは“蛍光ナノアンテナ”として働き,薬剤分子が狙い通りに標的に結合しているかどうかをリアルタイムで知らせるほか,細胞の活動状況を明らかにできるだろう。

 

細胞はタンパク質分子を用いて他の細胞と情報を交換し,全身にわたって様々な活動を引き起こしている。そうしたメッセージを担う分子が細胞表面の別のタンパク質(受容体)に接触すると,タンパク質分子の一部分が鍵で開けられた錠前のように変形し,所定の反応が始まる。蛍光ナノアンテナは直径わずか5nm(典型的な細菌の1/200ほど)で,受容体タンパク質に結びついて分子レベルで相互作用する。特定のタンパク質と結合するナノアンテナを個別に設計可能だ。結合先のタンパク質が変形するとナノアンテナ自身も変化して発光し,これを蛍光顕微鏡で見ることができる。

 

加モントリオール大学のナノテクノロジー研究者バレー=ベリール(Alexis Vallée-Bélisle)らはこうしたナノアンテナを用いて,ある特定の消化酵素が5種類の活動(抗体との反応や酸性度の変化など)を溶液中で引き起こしたときに蛍光を発するようにして実験で確かめた。「これは便利なツールだ」という。彼が上級著者となった研究論文はNature Methods誌に掲載された。

 

特定の標的に合わせて設計可能

これまでに,遭遇したタンパク質の種別を問わずどれにでも結合する金属ベースのナノアンテナが別の研究者によって作られていた。これに対しDNAベースの今回のアンテナは,ヌクレオチドという構成単位の配列を調整することによって,特定のタンパク質(またはその一部領域)にくっつくように設計して作ることができる。「いわば組み立て玩具のブロックのようなものだ」と独ライプニッツ光技術研究所の物理学者イェシルユルト(Mina Yeşilyurt,この研究には加わっていない)はいう。「無数の組み合わせを作れる」。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年7月号誌面でどうぞ。

 

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