SCOPE & ADVANCE

視野の外を見る〜日経サイエンス2022年6月号より

特殊なホログラフィックカメラは障害物に隠れた物体の像を構成できる

 

新たな撮像技術によって,いずれは医師が人体組織や骨の裏側に隠れた部分をのぞき込み,整備士が飛行機のタービンなど作動中の機械のわずかな不具合を検査し,自動運転車が濃い霧や見通しのきかない曲がり角の向こう側を見通すことが可能になるかもしれない。Nature Communications誌に掲載された報告は,隠れて見えない物体の詳細なスナップショットをほぼ即時にとらえる「合成波長ホログラフィー」というこの技法について詳しく述べている。

 

光は角の周りで跳ね返る際や濁った物質中を進むときに散乱するとポートランド州立大学(オレゴン州)の電気工学者イングル(Atul Ingle,この研究には加わっていない)は説明する。そうした障害物の向こう側にあるものを見るには,「この散乱を取り消して,隠れた構造物を非常に高い分解能で解像する必要がある」という。今回の技術は動画に使えるほど高速のフレームレート(コマ数)でこれらの難題を克服しているとイングルは付け加える。

 

干渉に基づく非視線方向イメージング

この手法では,波長がわずかに異なるレーザービームを障害物(壁であれ半透明の物質であれ)越しに発射して,隠されている標的に照射する。反射して戻ってきたレーザー光を重ね合わせて干渉パターンを作り出すと,直接には見えていない物体までの距離がそこから明らかになる。この処理過程は科学者が恒星の大きさと形や細胞の構造を正確に計測するのに使ってきた干渉計の技術がもとになっている。他の方式の「非視線方向(NLOS)イメージング」は即時処理と高解像度,広視野の実現に苦戦しているが,「私たちの手法はこれらの特徴すべてを同時に兼ね備えている」と研究論文の筆頭著者となったノースウェスタン大学の物理学者ウィロミッツァー(Florian Willomitzer)はいう。

 

ウィロミッツァーらは不透明なプラスチック板や曲がり角の向こうに隠れたミリメートル大の文字を撮像できることを実証した。従来の撮像法が何千もの画素を繰り返しスキャンして1枚の画像を作り出すのに対し,この手法ではたった2回の露光(それぞれわずか23ミリ秒ですむ)でほぼ半球に近い視野をスキャンできる。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年6月号誌面でどうぞ。

 

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