社会性昆虫の社会的距離〜日経サイエンス2022年6月号より
ミツバチは感染個体に対して隔離と交流のバランスを取っている
致命的な病原体に対処するためにソーシャルディスタンスを取る動物は人間だけではない。最近のある研究は,ミツバチがミツバチヘギイタダニ(Varroa destructor)の拡散を防ぐために自らの行動や空間利用の仕方を変えることを示している。このダニはミツバチの臓器を食べるうえ,厄介なウイルスを宿していることもあり,世界のミツバチにとって最大級の脅威となっている。研究チームはこのダニに感染した野生のミツバチと飼育下のミツバチで行動の変化を観察した。
感染した野生ミツバチの個体群では,古手の採集蜂が餌のありかを他の蜂に伝えるダンスを巣の外の近場で行うことがわかった。こうした行動は,巣の中央部にいる若い育児蜂や幼虫が病気にかかるのを避けるよう意図したものとみられる。感染した野生ミツバチはまた,巣の中央部にいる貴重な若い蜂の間では特に,互いを熱心にグルーミングしてダニを取り除いていた。Science Advances誌に報告。
「こうした社会組織的な変化は寄生虫が巣のなかに広がるのを抑えるための戦略なのだろうと私たちは解釈した」と研究論文の筆頭著者となった伊サッサリ大学の農業科学者プシェドゥ(Michelina Pusceddu)はいう。
犠牲を伴うソーシャルディスタンス
飼育下ミツバチの場合も,感染した個体はやはり非感染の蜂よりも多くのグルーミングを受けていた。だが予想に反して,これらの感染蜂は触角での触れあいや吐き戻した食物の共有など,他の個体と交流する活動もより活発に行っていた。これは病気の拡大抑制と仲間とのコミュニケーション維持の二律背反を反映しているのだろうと研究チームはみている。「規模の小さな集団や同じ役割を担う個体の集団の場合,仲間と距離を置いて交流を控えるのはおそらく犠牲が大きすぎるのだろう」と論文の上席著者となった同じくサッサリ大学のサッタ(Alberto Satta)は指摘する。(続く)
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