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圧力かけても流れない〜日経サイエンス2022年6月号より

ある種の流体が示す減速の理由

 

ケチャップのチューブを絞ると中身が飛び出すように,ほとんどの流体では圧力の増加が速度の急上昇につながる。しかし,ある種の流体は土壌や堆積岩など多孔質の素材を通って流れている場合,圧力を受けると減速する。この原因を特定することは,環境浄化や石油採掘など,ある流体をポンプで地中に注入して別の流体を押し出している産業に役立つだろう。だが,そうした動きを直接観察するのは難しい。

 

プリンストン大学の化学工学者ブラウン(Christopher Browne)と物理学者のダッタ(Sujit Datta)はこの難問に対する解決策を提示した。ある特殊な流体に手を加えて透明にし,同じく透明な“人造岩石”の小さな空隙を通じて押し流すことで,この流体の動きが混乱して渦が生じ,渦が小さな孔を詰まらせて流れを遅くしている様子を記録した。

 

問題の流体は「高分子溶液」と呼ばれ,生体のほか化粧品やエネルギー産業でよく見られる弾力性のある大きな鎖状分子を溶解したものだ。この鎖状分子が平坦な流路に沿って伸ばされた後に反動で元に戻ると,その力で渦が生じうることが理論研究で示唆されていた。だが,そのような乱れが「現実的な3次元の土壌や堆積物,多孔質岩石で発生しているかどうかは激論の的だった」とダッタはいう。

 

見えなかったものを見る工夫

決着をつけるため,研究チームは小さなガラス玉を箱に詰めて擬似的な“堆積岩”を作り,ここに高分子溶液を注入した。高分子溶液をわずかに希釈して光の屈折具合を変え,“岩石”が溶液で飽和しても完全に透明であるようにした。

 

溶液に蛍光性の小片を混ぜ,これが細孔を通過する動きを顕微鏡で追跡することで,渦が生じている領域がところどころにできる様子を記録するとともに,異なる圧力をかけたときに溶液がどのように流れるかを測定した。この結果,理論が予測していた通り,マクロスケールの速度低下にミクロの起源があることが確かめられた。高分子鎖が引き伸ばされ,孔を通過した後に元に戻っていると考えられる。Science Advances誌に報告。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年6月号誌面でどうぞ。

 

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