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温暖化でアホウドリが離婚〜日経サイエンス2022年6月号より

海水温上昇がアホウドリの“結婚”に冷や水を浴びせている

 

マユグロアホウドリよりも情愛の深い動物はそういない。マスカラのような黒い眉がついたこの大型の海鳥は一雌一雄制で,つがいは一生連れ添うことが多い。このロマンチックに見える“結婚”には実際的な目的がある。同じパートナーと連れ添って信頼を築くことは,餌探しの遠征や抱卵の仕事を交代でするために重要なのだ。

 

だが“離婚”もないわけではない。他の一雌一雄制の動物と同様,メスのアホウドリは繁殖がうまくいかなかった場合には夫婦関係を解消する。この経過は控えめであって,別れる2羽の間で激しい口げんかが起こることもないと,ポルトガルのリスボン大学にいる生物学者ベンチュラ(Francesco Ventura)はいう。1年たっても繁殖がうまくいかないとメスが判断した場合,単に相手に見切りをつけ,次の繁殖シーズンには別のオスと一緒に現れる。



離婚率の変化を追跡

こうした離婚は無理からぬものだが,ベンチュラはフォークランド諸島にあるニューアイランドという岩の小島で繁殖するマユグロアホウドリのつがい約1万5500組を観察するなかで,離婚率が毎年変化することに気づいた。研究チームが約15年間の繁殖データを精査した結果,「前年よりも離婚率が明らかに高い年があった」とベンチュラはいう。

 

詳しく調べるため,研究チームはアホウドリにとって重要な2つの環境変数に注目した。風速と海面温度だ。それぞれがアホウドリに異なる道筋で影響を与える。風が強いと,高く舞い上がる飛行が容易になり,遠くまで食物を集めにいける。一方,海面温度が上がると植物性プランクトンの発生が減り,これが海の食物網に連鎖的な影響を与えて,アホウドリが得られる食物が減る。この結果,アホウドリは十分な食物を見つけるために遠くまで飛ばねばならず負担が増す。それによって繁殖スケジュールが狂うほか,つがいの間に生じるストレスが高まる。どちらの要因も繁殖の成功率を下げる可能性がある。

 

ベンチュラらはProceedings of the Royal Society B誌に発表した論文で,海水温が上昇するとニューアイランドのマユグロアホウドリの離婚率が高くなると結論づけた。環境要因が一雌一雄制の野生動物個体群の離婚率を高める証拠を示したのはこれが初めてだと研究チームはいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年6月号誌面でどうぞ。

 

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