自然の呼び声〜日経サイエンス2022年5月号より
ウシのトイレ訓練
排尿は簡単だが,それを我慢するのは難しい。オオカミなどの動物は縄張りを他と区別してマーキングするために膀胱を制御しているが,ウシはのんきに放牧地を歩き回りながら気ままに尿をまき散らしている。「ここからは,ウシは排尿をまったく制御できないという印象を受ける」と,ドイツにある家畜生物学研究所の動物心理学者ラングバイン(Jan Langbein)はいう。「だがイヌはトイレトレーニングができるし,ウマも訓練できる。だからウシもできるんじゃないかと考えた」。
ラングバインらはCurrent Biology誌に報告した研究で, 16頭の子牛に1日おきに45分間のトイレ訓練をした。まず,特別に囲った掘り込み便所(モーモートイレと名づけた)に子牛を入れ,子牛がそこで排尿したら壁の穴から食べ物を与えた。そして,このトイレを使うとご褒美がもらえるのだと子牛が学習してから,子牛を外に出した。その後,子牛が自分から進んでトイレに入って用を足したら再びご褒美を与え,外で用を足した場合には3秒間水をかけた。
10日間の訓練の結果,11頭が約77%の確率でトイレを使うようになり,ウシがトイレでの排尿を短時間で学習できることが実証された。研究チームは現在,実際の農場向けに監視の手間がかからない自動システムを作ろうとしている。
ウシの尿を掘り込み便所に集められれば,汚染や温室効果ガスの排出,人間への病気の伝染を抑えるのに役立つだろうと,台湾の国立精華大学の機械工学者ヤン(Patricia Yang,この研究には加わっていない)はいう。「人間の排泄物を管理しているように動物の排泄物も管理できれば,そうした病気をなくせる」という。■
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