SCOPE & ADVANCE

氷河のささやき〜日経サイエンス2022年4月号より

人間には聞こえない超低周波音で氷河崩壊を検出・監視

 

2017年,スイスアルプスのアイガーで氷河が崩壊し,小型飛行船ほどの大きさの氷の塊が崩れ落ちた。その際に生じたとどろきの一部は,周波数が低すぎて人間の耳には聞こえなかった。だがそれらの振動は氷河崩壊の極めて重要な特徴を割り出すためのカギを握っている。

 

大気中で長距離を伝わる超低周波音(インフラサウンド)はすでに活火山を遠くから監視するのに使われている。この分野の一部研究者は近年,監視対象を火山から氷に切り替えた。氷河から急に剥がれ落ちる危険な氷の板だ。雪崩から生じる超低周波音を解析した過去の研究例はあるが,氷を対象にしたものはGeophysical Research Letters誌に発表された今回の研究が初めてだとボイシ州立大学(アイダホ州)の地球物理学者ジョンソン(Jeffrey Johnson)はいう。「雪の場合とは異なる特徴が超低周波音によって検知された」。ジョンソンは今回の研究には加わっていないが,以前に論文の筆頭著者と共同作業したことがある。
 


Michal Balada/Getty Images

 
レーダーよりも広域を監視

氷河は非常にゆっくりと動いているため,通常は超低周波音の信号(気圧の微小な変化をとらえる装置によって検出する)を発しない。だが氷河本体から突如として氷が急速に剥がれ落ちる場合には,超低周波音がたくさん発生する。この氷河崩壊は氷のなだれを引き起こす。温暖化で広大な氷原が脆弱になるにつれ,山岳地帯の人々に及ぶ危険は増している。「氷河が融解によって地面から切り離されると,より大きな分離崩落が生じうる」と今回の研究論文の筆頭著者となった伊フィレンツェ大学の地質学者マルケッティ(Emanuele Marchetti)はいう。危険が高まるなか,科学者はそうした氷河崩壊を監視し検知する新たな方法を探し求めている。

 

氷なだれを追跡するにはレーダーが使われることが多い。しかしこの方法は正確だが費用がかかり,監視できるのは特定の1カ所と,それに隣接する氷なだれの通り道に限られる。これに対し超低周波音はもっと安価ですみ,広範囲にわたって分離崩落を検知でき,1つの山で発生する複数の氷なだれを把握できるとマルケッティはいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年4月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む