シェフは3Dプリンター〜日経サイエンス2022年4月号より
造形と同時にレーザーで加熱調理
未来の高級レストランは複雑な調理技法と手の込んだ盛り付けの品を売りにすることになるかもしれない。しかも,それをボタンひとつで作り出す。コロンビア大学の機械工学者チームが,ミリメートル級の細かさで食品を造形しながら同時に加熱調理できる3Dプリンターを設計した。
npj Science of Food誌に報告されたこの概念実証機は,スマートフォンを5つ重ねたくらいの大きさの多波長レーザー加熱調理器と,電子レンジ大の食品プリンターを組み合わせている。装置のロボットアームが鶏肉ピューレを薄い層としてプリントすると,高出力ビームがその上をジグザグに進んで加熱する。文字通りレーザー光線の精密さだ。「クレームブリュレにバーナーで焼き目をつけるのに似ている」と論文の筆頭著者となったコロンビア大学のデジタル調理研究者ブルティンガー(Jonathan Blutinger)はいう。「従来よりもずっと多くの調節やカスタマイズが可能だ」。今回の研究でチームが試したのは鶏肉だけだったが,他の食品も同様に料理できる。
この種のソフトウエア制御による装置は料理に洗練された口当たりと見栄えを与えるだけでなく,いずれはQRコードをスキャンして,その人の好みや食事制限に合わせた料理を自動的に用意するようになるだろうとブルティンガーはいう。
異なる波長で焼き方を変える
研究チームによると,今回のシステムはレーザー加熱調理器と3D食品プリンターを組み合わせた初の例で,様々に異なる加熱を行うためにそれぞれ異なる波長の光を使っている。例えば短波長の青色レーザーは肉の内側深くまで通るのに対し,波長の長い赤外線ビームはあぶり焼きや表面に焼き色をつけるのに使われる。こうして手の込んだ出来栄えの料理が可能になる。例えばレアとウェルダンが市松模様をなして交互に配置したハンバーグステーキができる。(続く)
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