TDK、数学と磁石の魅力語る 〜柏陽高生、量子アニーリングの活用学ぶ
TDKは神奈川県立柏陽高等学校(横浜市)の生徒を対象にした特別オンライン講義を2021年12月に開いた。入社4年目の若手研究者2人が話題の量子アニーリングや超強力磁石の魅力を熱く語り、高校・大学生時代の基礎的な学びが今の仕事に役立っていると伝えた。
組み合わせ最適化問題と巨大数
第1部は柏陽高校OBで応用製品開発センターに所属する浅井海図氏が講師を務めた。「数学が趣味」という浅井氏は量子を利用した新たな計算アルゴリズムの探索を主な業務にしている。講義では 「“スピン”で美味しいカレーは作れるか、“スピン”で工場は救えるか」と題して、数学の組み合わせ最適化問題とそれを解く「量子アニーリング」について解説した。
まずカレー作りの材料選びを最適化問題の例題に示し、工場における製品処理の最適な順番を求めるのも同様の式で表現できる問題であると説明。選択肢の数が増えると組み合わせの数は階乗によって増え、「組み合わせ爆発」と呼ぶ巨大な数になることを、宇宙の寿命や素粒子の数などと比較して説明した。
膨大な組み合わせ数から最適な解を求めるには、問題に応じてアルゴリズムを選択するのが重要とし、その中でも”スピン”を制御して計算する量子アニーリングの原理や可能性を解説した。
浅井氏は「NP困難」「ノーフリーランチ定理」などの数学用語の解説も交えながら講義を進め、「現実にある諸問題はだいたいNP困難な問題として定式化される」と説明した。また「数学は当たり前を排除する学問で、先入観があっては見えないものが見えるようになる」と数学を学ぶ意義を説いた。
電子のスピンが磁性を生む
第2部は材料研究センターの劉麗華氏が「磁石のフシギ」と題して講義した。劉氏は中国江蘇省出身。筑波大学大学院で博士号を取得し、磁性材料を使って多様な部品を製造するTDKに入社した。世界最強といわれるネオジム磁石の研究を学生時代に始めて今年
で10年目になるという。
磁性材料は電動機や発電機に使われ、家電や自動車など幅広い用途がある。身近な活用事例として、磁石の高性能化によってハイブリッド車のモーターの小型化や出力アップが進んできたと話した。
講義では磁性体には硬磁性体(=磁石)と軟磁性体があることや、外からかけた磁界の強さに応じた磁化の大きさや磁束密度の変化を示す磁化曲線が材料評価や回路設計の指標になっていることを解説した。また磁性は電子のスピンと軌道運動によって発生し、原子にペアになっていない不対電子があれば強い磁石になる素質がある仕組みを図解した。日本人研究者の功績による磁石発展の歴史や、磁石を加熱すると磁性を失う特性なども説明した。
劉氏が研究対象とするネオジム磁石は自動車やエネルギー分野などで需要が増え、高性能化が進んでいる。ただ磁石の安定性を左右する保磁力はまだ高くなるとみられ、劉氏はそれを目指した自らの研究内容も披露してくれた。
受講した生徒からは「数学が社会で役立つことを実感できた。数学を学ぶ意義がわかった」「磁石の高性能化がさらに進むと、社会や生活がどのように変わるか興味がわいた」などの感想があり、大いに刺激を受けていた。■
(日経サイエンス2022年3月号に掲載)
※所属・肩書きは掲載当時
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協力:日経サイエンス 日本経済新聞社