リュウグウみやげ 初の分析結果〜日経サイエンス2022年3月号より
太陽系誕生時の物質組成を保つ,最も始原的な隕石に似ている
探査機はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの試料の最初の分析結果が発表された。最も始原的な隕石に似ているが,それよりさらに黒っぽくスカスカしている。試料の分析が進めば,太陽系の起源と進化,生命の素材となる水と有機物が地球にもたらされた過程を解き明かす研究が大きく前進しそうだ。成果は2021年12月20日付のNature Astronomy誌に報告された。
リュウグウは望遠鏡観測でC型小惑星というタイプであることがわかっていた。C型は,そのスペクトルの類似性から,有機物と水を含む始原的な隕石,炭素質コンドライトの母天体と目される。はやぶさ2によるリュウグウ上空からの観測では有機物と水の存在を示唆するデータが得られていた。試料の分析結果はこの上空観測のデータとよく一致し,試料がリュウグウ由来であることが確認された。炭素質コンドライトはいくつかのタイプに分けられるが,試料の分析結果によれば,リュウグウは炭素質コンドライトの中でも最も始原的なタイプであるCI型によく似ている。リュウグウの試料によって,C型小惑星が炭素質コンドライトの母天体である可能性が高まったといえる。
炭素質コンドライトはコンドリュールと呼ばれる微小な球状粒子とCAIという白色の物質が含まれ,それらは惑星が誕生する過程で生じた高温環境下で形成されたとみられている。はやぶさ2がリュウグウに降下させた小型着陸機による顕微鏡観察では,小惑星表面の岩石にコンドリュールまたはCAIとも解釈できる斑点が捉えられ,試料にもそれらが含まれている可能性が指摘されていた。
ところが,今回観察した範囲では試料中にコンドリュールとCAIは確認されなかった。試料との類似性が高いCI型は炭素質コンドライトの中でもコンドリュールとCAIがほとんど含まれていないのが大きな特徴なので,試料中にそれらが見られないこととは整合性がある。一方,小型着陸機が観察したリュウグウの岩石表面の斑点の正体については謎が深まった形だ。
リュウグウの試料で興味深いのはCI型の炭素質コンドライトとの類似性が高い一方,2つの点が異なること。1つは密度。CI型が2.12g/cm3なのに対し,試料の平均密度はその半分に近い1.282g/cm3だ。リュウグウの試料は基本的にはCI型の炭素質コンドライトと同等である可能性が高いので,密度の低さは内部に空隙が多いことを意味する。CI 型の母天体もリュウグウの試料のように大半がスカスカだったが,地球大気圏に突入して隕石として落ちてくる過程で多くは壊れてしまい,空隙の少ないものだけが破壊を免れて地表に到達した可能性もある。
もう1つは反射率が異なること。リュウグウの試料の方がCI型より低く,より黒っぽく見える(左のグラフ)。またCI型は波長によって反射率が変わるのに対し,リュウグウのサンプルの方は波長によらずほぼ一定だ(ただしCI型の中にも同様の傾向を示すものもある)。こうした反射率の違いが何を意味するのかは今後の研究課題だ。
今回の結果は試料のカタログを作る段階で得られたもの。今後,はやぶさ2計画で設けられた国際チームによる,より詳細な初期分析の結果が報告される予定だ。■
ほかにも話題満載!現在発売中の2022年3月号誌面でどうぞ。