SCOPE & ADVANCE

細菌で作る筋肉タンパク質〜日経サイエンス2022年3月号より

強靭な繊維になる大きな分子を大腸菌に作らせた

 

Bowen, C.H., Sargent, C.J., Wang, A. et al. Microbial production of megadalton titin yields fibers with advantageous mechanical properties. Nat Commun 12, 5182 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-25360-6

近く,細菌が新たな製造分野に進出しそうだ。ありふれた大腸菌を使って「チチン」という筋タンパク質を合成する技術が開発された。このタンパク質はいずれ,丈夫でしなやかな繊維を作るのに使える可能性がある。考えられる用途は医療用の縫合糸から耐衝撃性や生分解性の織物まで幅広い。このチチン分子はこれまでに実験室で作られた大半の分子よりも数十倍大きいと,開発に成功した研究チームは述べている。

 

大きな分子を部分ごとに作らせて結合

大腸菌は管理しやすく増殖が速いので,バイオディーゼル燃料や医薬品など多くの物質を作るのに使われている。だが最近まで,チチンのような大きなタンパク質を合成することはできなかった。チチンは大腸菌が自然に作っているタンパク質に比べると約50倍も大きい。

 

研究チームはプラスミドという環状のDNAにタンパク質合成の指令を書き込んだうえで大腸菌に導入してチチンを作らせ,最近のNature Communications誌に詳細を報告した。論文を共著したワシントン大学(セントルイス)の生化学者サージェント(Cameron Sargent)は,細菌がチチンのような大きなタンパク質を作ると細胞の資源が枯渇してしまうという。もしプラスミドが大腸菌にこのタンパク質分子の全体を一度に作らせようとすると,大腸菌はその重荷から逃れようとして,プラスミドを排除するか切り詰めてしまうだろう。そこで同チームは,大腸菌にもっと短いタンパク質断片を作らせるプラスミドを組み込み,細菌の細胞内でできたそれらの断片が自然に結びついてチチン分子になるようにした。

 

大腸菌からチチンを抽出した後,これを高濃度で有機溶媒に溶かした。次にこの溶液をシリンジで水中に噴射し,チチンの糸を紡ぎ出した。クモが細い糸で巣を張る様子にヒントを得た方法だ。こうして作られた糸の強度と靱性は,筋線維のなかで測定した天然のチチンを上回った。(続く)

 

続きは現在発売中の2022年3月号誌面でどうぞ。

 

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